PFOAの使用と含有製品はいつから規制か|フライパンから繊維、撥水剤、泡消火剤まで

2021年6月13日更新

PFOA(読み方:ピーフォア)とはPFOとも呼ばれ、フライパンのフッ素樹脂コーティングや撥水加工、泡消火剤の原料として使用されていた「有機フッ素化合物」を意味しています。正式名称をペルフルオロオクタン酸といい、英語ではPerfluorooctanoic Acidとなるため、その省略形からPFOAの略称が使われています。古いものを除くと、現在のフライパンにフッ素樹脂コーティング(PTFE、テフロンなど)が使われているものの多くはPFOAを含有していないことを主要メーカーは公言しており、PFOAフリーであることがスタンダードになりつつあります。

PFOA含有製品の規制はいつから

PFOAとその塩は、排出されると自然環境下では分解されず、生物の中に蓄積される危険性が指摘されており、2019年5月、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)にて国際的にこの物質の製造や使用の廃絶に向けて取り組む合意が加盟国の間でなされました。

これに伴い、日本でもこの物質を規制するために法令に落とし込まれ、具体的には化審法の第一種特定化学物質に指定されて規制対象となっています。後述する通り、施行は2021年(令和3年)10月22日からとなりますので、この日から規制対象となり使用禁止ということになります。

ただこの物質の危険性が問題視され実際に規制対象となってきているのはそんなに昔のことではないという点がひとつの問題です。条約では類似物質のPFOSがまず2009年に使用禁止となり、その後、POPs条約で2019年にPFOA使用禁止が採択されていますが、実際に各国の法律に落とし込まれて規制されるのはさらに後になります。近年は、これらと違い分解が可能と主張されているPFHxSも問題視されていますが、これらは規制対象にすらまだなっていません。

後述する通り、PFOAは規制したらすぐに影響がなくなる、という類の物質ではないことが物議を醸しています。これ以上の被害拡大を防ぐ効果はあるものの、すでに排出されてしまっているものをどのように検知し、飲料水や土壌を通して人の体内に取り込まれてしまう前に除去するかという点も考慮が必要なポイントになります。

使用禁止となる若干前から自主的に使用を控えていたメーカーがある一方、法令で禁止されていないわけですから、すでに市場に出回っているものが現実的にはあるということになります。

PFOAによる水質汚染により発生した健康被害に対して訴訟が米国を中心に起きたことでいよいよ規制に対する国際的な機運が高まってきた背景がありますが、実際の使用禁止までにはかなりの時間がかかっています。

使用継続されている特定の用途

今回の規制についても、PFOAがあらゆる用途に対して使用禁止となっている厳しい規制ではなく、特定用途(エッセンシャルユース)での使用が認められており、完全な廃絶には至っていません。また日本では製造・輸入が事実上の禁止となっていますが、許可制の体裁をとっています。こうしたことから、用途によってはPFOAを使用している製品と使用していない製品が入り混じっているものもあり、混入・コンタミの可能性も指摘されています。

特定用途(エッセンシャルユース)での使用許可とは、工業生産のうえでこの物質なしでは作ることが困難になるため、業界から打ちあがってきた為の措置です。

PFOAの使用が認められている分野としては以下が挙げられています。

  • 半導体製造におけるフォトリソグラフィ又はエッチングプロセス
  • フィルムに施される写真用コーティング
  • 作業者保護のための撥油・撥水繊維製品
  • 侵襲性及び埋込型医療機器
  • 液体燃料から発生する蒸気の抑制及び液体燃料による火災のために配備されたシステム(移動式及び固定式の両方を含む。)における泡消火薬剤
  • 医薬品の製造を目的としたペルフルオロオクタンブロミド(PFOB)の製造のためのペルフルオロオクタンヨージド(PFOI)の使用
  • 以下の製品に使用するためのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)の製造
    • 高機能性の抗腐食性ガスフィルター膜、水処理膜、医療用繊維に用いる膜
    • 産業用廃熱交換器
    • 揮発性有機化合物及びPM2.5微粒子の漏えい防止可能な工業用シーリング材
  • 送電用高圧電線及びケーブルの製造のためのポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)の製造
  • Oリング、Vベルト及び自動車の内装に使用するプラスチック製装飾品の製造のためのフルオロエラストマーの製造

一見、日常生活に関係があまりないと思われるかもしれませんが、実際のところ、日常的に接する可能性のある製品にも継続使用されているという点には留意が必要です。

水や油をはじく加工を施した衣服・靴に使うこともでき、また航空基地等には常備されている泡消火剤(消火訓練や事故などで実際に噴出されることもある)にも使われ、自動車部品のOリングやVベルト、自動車内装材のプラスチック製品に使うこともできます。

また、こうした製品が製造される工場からPFOAが河川や土壌に流れ出してしまうと、その水を取り込んだ生物・人に甚大な被害を及ぼすことになります。したがって、PFOA使用品を日常使用していないとしても、PFOAを体内に取り込んでしまう可能性がないわけではありません。むしろ、現在だけでなく過去も含めて製造工場から流出したことが要因による健康被害が問題視されている状況です。

いったん、流れ出したものが分解されないという点もこの物質の危険性を高めている要素の一つです。自然には分解されないことから、永遠の化学物質「フォーエバー・ケミカル」とも呼ばれます。悪影響を及ぼす物質が分解ができないということは、将来にわたって影響が蓄積されていくことを意味します。

除去する方法としては、米軍基地周辺から流出したPFOAの水道用水を浄化するため沖縄で実践されている活性炭を使って吸着させる方法が実用化されていますが、特殊な設備とコストがかかります。また水質調査の項目としてこの物質を入れておく必要がありますが、日本国内の地方自治体でPFOAを水質調査の項目として継続実施しているところは多くありません。

使用される可能性がある含有製品|輸入禁止製品

また、製造とは別に諸外国からの輸入を禁止する品目も規定されており、化審法施行令第7条で、具体的な含有製品につき以下を輸入できないものとして指定しています。

  • 耐水性能又は耐油性能を与えるための処理をした紙
  • はつ水(撥水)性能又ははつ油(撥油)性能を与えるための処理をした生地
  • 洗浄剤
  • 半導体の製造に使用する反射防止剤
  • 塗料及びワニス
  • はつ水剤及びはつ油剤
  • 接着剤及びシーリング用の充てん料
  • 消火器、消火器用消火薬剤及び泡消火薬剤
  • トナー
  • はつ水性能又ははつ油性能を与えるための処理をした衣服
  • はつ水性能又ははつ油性能を与えるための処理をした床敷物
  • 床用ワックス
  • 業務用写真フィルム

こうした日本での規制の施行は2021年(令和3年)10月22日からとなりますが、フッ素樹脂のメーカーや、フライパンなどの家庭用品の製造販売を行うメーカーでは正式な規制以前から、PFOAを自主的に使用しない動きをとっているところもあります。

米国環境保護庁からフッ素樹脂メーカー8社への取り組み要請

例えば、日本弗素樹脂工業会では、会員企業は「2013年末までにPFOAの使用を全廃」していることを公開しています。この中には、フッ素樹脂の製造メーカーとしてAGC株式会社、株式会社クレハ、ダイキン工業株式会社、三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社の4社が会員となっています。

デュポンや3M(2008年8月からPFOAを使用しない新しい乳化剤を使ったフッ素ポリマー製品の製造を開始)といった外資企業も2015年までに使用廃止と発表されています。

2015年という期限は、米国環境保護庁のスチュワードシッププログラムでのPFOA全廃の内容と呼応しています。

これは同庁が2006年に世界の主要なフッ素化学メーカーに参加を呼び掛けたもので、「PFOA自主削減プログラム(PFOA 2010/2015スチュワードシップ・プログラム)」と呼ばれるものです。

主要なフッ素化学メーカーとは、デュポン(現ケマーズ)、3M/ダイネオン、旭硝子(現AGC)、ソルベイ・ソレキシス(現ソルベイ・スペシャルティー・ポリマーズ)、アルケマ、クラリアント(現アークローマ)、チバ・スペシャルティー・ケミカル(現BASF)、ダイキン工業のことです。

含有製品の例

諸外国や過去の製造分野でPFOAがどのようなものに使われ含有しているかを列挙すると、下記のようにかなり広範な分野にわたることがわかります。

  • PTFE の乳化重合における界面活性剤
  • フロアワックス
  • 繊維
  • 衣服
  • シーラント
  • 調理器具
  • カーペット
  • フロアワックス
  • 内装
  • 泡消火薬剤

これはPFOAのもつ以下の性質が産業上・技術上有益であった為です。

  • 高い耐熱性
  • 耐薬品性にきわめて優れる
  • 水や油をはじく
  • 表面張力を大きく低下させる
PFOAの用途
物質名 用途
PFOA フッ素ポリマーの加工助剤、界面活性剤
PFOA塩 コーティング剤、半導体製造用の中間原料
  

結果、製品としては撥水剤、防油剤、防汚コーティング、泡消火剤として使用されています。

なお、日本国内では一般化学物質の届出制度が開始された平成22年度以降(2010年以降)は、PFOAの製造・輸入の実績はなく、PFOA塩についても実績はあるものの、ほぼ無くなってきており、縮小傾向にあります。輸入実績があるものとしては、撥水撥油加工をした衣服・カーペットなどが挙げられています。

PFOAにはどのような害があるか|健康被害、人体への影響

生物の体内に蓄積されることは前述したとおりですが、具体的にはMSDS等で以下の危険性が記載されています。

  • 飲み込むと有害
  • 皮膚刺激
  • 重篤な眼の損傷
  • 吸入すると有毒
  • 呼吸器への刺激のおそれ
  • 眠気又はめまいのおそれ
  • 発がんのおそれの疑い
  • 生殖能又は胎児への悪影響のおそれ
  • 授乳中の子に害を及ぼすおそれ
  • 長期にわたる、又は反復ばく露による中枢神経系、肝臓の障害
  • 長期にわたる、又は反復ばく露による骨髄の障害のおそれ
  • 水生生物に有害

米国では2000年にPFOAの使用工場(デュポン)の河川流域の住民に、潰瘍性大腸炎や腎臓がんなどの健康被害が発症し、訴訟に発展しています。これは河川に流れ出したPFOA等を飲料水として住民の体内に取り込まれてしまっていたことが原因です。

この流域の住民は、PFOAの血中濃度が米国人平均の20倍となっており、高コレステロール、妊娠性高血圧、精巣がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、腎臓がんの6つの病気の発症率が高くなっていたことが報告されています。

世界保健機構(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、PFOAをグループ2B(発がん性のおそれがある物質)として分類していますが、実際の米国での訴訟では因果関係が認められています。

化学物質の中でもPFOAが怖いのは、前述した通り、いったん出てしまうと自然環境下では分解できず、水などに微量に含まれたものを摂取してしまうと、人の体にもどんどん蓄積され、排出されないという点です。

2021年10月から正式に規制されるとはいえ、過去に排出されたものがすべて環境に分解されることなく残っている物質になりますので、それらを取り込んでしまえば健康被害の可能性に変わりはありません。

規制施行前のPFOA含有製品は使わない、以下のような製品工場のあった流域(本来、適切な流出対策を行っているのであれば問題ないはずなのですが)では井戸水や地下水などを利用しない、当該地域の浄水場設備にPFOA除去の活性炭設備があるか・水質調査の項目に入っているか・検知可能か確認といった自衛策しかありませんが、継続しての監視が必要な化学物質であるといえます。公的な水質基準に盛り込まれることが期待されます。

日本ではいくつかの研究グループがPFOA関連製造工場のあった場所等の地下水や河川の水質調査を行った際、米国での健康被害を及ぼさないといわれる基準の数倍、数十倍にもなる値が検出されています。

  • フッ素樹脂製造工場
  • PFOA製造工場
  • 防水・防油・防汚加工の施された衣類・靴・繊維製品などの製造工場
  • 半導体製造工場
  • PFOAを使用する自動車部品工場
  • 泡消火剤製造工場
  • 泡消火剤の保管場所・消火訓練場所・航空基地
  • 膜製品、工業用シーリング材(揮発性有機化合物及びPM2.5微粒子の漏えい防止可能)の製造工場
  • 産業用廃熱交換器の製造工場
  • ポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)の製造工場
  • フルオロエラストマーの製造工場

環境中の有機フッ素化合物の水質調査を行っている地方自治体は日本ではわずか6都道府県(東京都、神奈川県、静岡県、兵庫県、岡山県、沖縄県)ですが、水道法第4条の規定に基づき、「水質基準に関する省令」で規定する水質基準の51項目にそもそもPFOAは入っておらず、水道水中での検出の可能性があるなど水質管理上留意すべき項目として位置づけられている「水質管理目標設定項目と目標値(27項目)」の中に入っているのが現状です。

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