フェノール樹脂(PF)の物性と用途、特性について
人類史上、もっとも古くから実用化されたプラスチック
フェノール樹脂(PF)は、1909年に工業化したといわれる最も古い人工プラスチックです。名称が示すようにフェノールとホルムアルデヒドを原料としており、当時はベークライトの名称で作られていました。今でもベークライトはよく使われており、特に砥石の基盤としてはクッション性があることからアルミなどの金属材料と組み合わせたり、単独で使われることもあります。
フェノール樹脂の比重は1.32〜1.45(木粉を充填したもの)で、熱すると硬くなっていく熱硬化性プラスチックに分類されます。充填材としての木粉は主に電気絶縁性を付与するためのもので、熱硬化性樹脂に添加されます。
バランスのよい物性を持つ難燃性の樹脂
常用できる耐熱温度は150℃、酸、アルカリ、熱、油に対しても良好な耐性を持っています(アルカリについては若干弱いとも言われます)。難燃性の樹脂で、電気絶縁性、耐酸性、耐熱性、耐水性に優れます。用途としては、電気機器、化粧板、絶縁材料、プリント配線基板、アイロンハンドル、配電盤ブレーカー、キッチン用品(鍋・やかんの取っ手・ツマミ)、合板接着剤、砥石などの結合材にも使われます。
一般にはベークライトのほか、石炭酸樹脂ともいわれます。ベークライトは開発者のベークランドからとった名前ですが、国内では登録商標となっています。もっとも、現在ではフェノール樹脂(PF)の代名詞としても使われているため、この名称が使われる際は、同社の製品そのものを指しているのか、フェノール樹脂全般を指しているのか確認する必要があります。
酸触媒を用いた縮合重合によってノボラックという熱可塑性の樹脂ができます。またアルカリ触媒を用いると、レゾールという樹脂が得られます。
フィラー(充填材)の種類 | 無充填 | 木粉と綿ブロック | アスベスト | グラスファイバー(GF) | ||
---|---|---|---|---|---|---|
物理的性質 | 密度(g・cm^-3) | 1.21から1.30 | 1.34から1.45 | 1.45から2.00 | 1.69から1.95 | |
融点(℃) | 結晶性 | 熱硬化 | 熱硬化 | 熱硬化 | 熱硬化 | |
非晶性 | - | - | - | - | ||
透明度 | 透明から半透明 | 不透明 | 不透明 | 不透明 | ||
吸水率(%)3mm、24h | 0.1から0.2 | 0.3から1.2 | 0.1から0.5 | 0.03から1.2 | ||
成形特性 | 成形温度範囲(℃) | 圧縮、150から178 | 圧縮、161から211 | 圧縮、161から211 | 167から211 | |
成形圧力範囲(kgf・cm^-2) | 141から281 | 141から352 | 141から352 | 70から420 | ||
成形収縮率(%) | 1から1.2 | 0.4から0.9 | 0.2から0.9 | 0.0から0.4 | ||
機械的性質 | 引張強さ(kgf・mm^-2) | 4.9から5.6 | 3.5から6.3 | 3.1から5.2 | 3.5から12.7 | |
最大伸び率(%) | 1.0から1.5 | 0.4から0.8 | 0.18から0.50 | 0.2 | ||
圧縮強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2) | 7.0から21.9 | 15.5から25.3 | 14.1から24.6 | 11.2から49.2 | ||
曲げ強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2) | 8.4から10.5 | 4.9から9.8 | 14.9から9.8 | 7.0から42.2 | ||
引張弾性率(kgf・mm^-2) | 527から703 | 562から1200 | 703から2110 | 1340から2320 | ||
圧縮弾性率(kgf・mm^-2) | - | - | - | - | ||
曲げ弾性率(kgf・mm^-2) | - | 703から844 | 703から1550 | 1410から2320 | ||
アイゾット衝撃値(kgf・cm・cm^-1) | 1.0から1.9 | 1.3から3.2 | 1.4から1.9 | 1.6から98.0 | ||
硬度(硬さ) | ロックウェル | M124から128 | M100から115 | M105から115 | E54から101 | |
ショア | - | - | - | - | ||
熱的性質 | 熱伝導率(10^-4cal・s^-1cm^-2)(K・cm^-1)^-1 | 3.0から6.0 | 4.0から8.2 | 6.0から22.0 | 8.2から14.5 | |
比熱(cal・K^-1g^-1) | 0.38から0.42 | 0.32から0.40 | 0.28から0.32 | 0.24から0.27 | ||
線熱膨張率(10^-5K^-1) | 2.5から6.0 | 3.0から4.5 | 0.8から4.0 | 0.8から2.0 | ||
熱変形温度(℃) 18.6kgf・cm^-2 4.6kgf・cm^-2 |
133から144 | 167から206 | 194から278 | 194から306 | ||
電気的性質 | 体積抵抗率(Ω・cm)(23℃、50%RH相対湿度) | 1011から1012 | 109から1013 | 1010から1013 | 1012から1013 | |
絶縁強さ(短時間法)(3.18mm)/kV・mm-1 | 11.8から15.7 | 10.2から15.7 | 7.8から14.1 | 4.7から15.7 | ||
比誘電率(εγ) | 60Hz | 5.0から6.5 | 5.0から13.0 | 5.0から20.0 | 5.0から7.1 | |
MHz | 4.5から5.0 | 4.0から6.0 | 5.0から10.0 | 4.5から6.6 | ||
誘電正接(tanδ) | 60Hz | 0.06から0.10 | 0.05から0.3 | 0.05から0.20 | 0.04から0.05 | |
MHz | 0.015から0.03 | 0.03から0.07 | 0.35から0.80 | 0.01から0.02 | ||
化学的性質、耐薬品性 | 燃焼性、速度(mm・min-1) | - | 27から33 | 6.35から9.65 | 3.3から12.7 | |
日光の影響 | 表面暗色化 | 暗色化 | 暗色化 | 暗色化 | ||
弱酸の影響 | 無し、もしくは微小変化 | |||||
強酸の影響 | 酸化性酸に侵される。有機酸の影響は僅か。 | |||||
弱アルカリの影響 | 微小変化 | アルカリ度により微小〜相当程度 | ||||
強アルカリの影響 | 分解 | 侵される | ||||
有機溶剤の影響 | 抵抗良 |
フィラー(充填材)の種類 | 無充填 | アスベスト | ||
---|---|---|---|---|
物理的性質 | 密度(g・cm^-3) | 1.23から1.32 | 1.70 | |
融点(℃) | 結晶性 | − | − | |
非晶性 | - | - | ||
透明度 | − | 不透明 | ||
吸水率(%)3mm、24h | 0.2から0.4 | − | ||
成形特性 | 成形温度範囲(℃) | − | − | |
成形圧力範囲(kgf・cm^-2) | − | − | ||
成形収縮率(%) | − | − | ||
機械的性質 | 引張強さ(kgf・mm^-2) | 3.5 | 2.1から4.2 | |
最大伸び率(%) | 1.5から2.0 | − | ||
圧縮強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2) | 8.4から10.5 | 7.3から8.7 | ||
曲げ強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2) | 7.7から12.0 | 3.5から5.6 | ||
引張弾性率(kgf・mm^-2) | 281から492 | 1320 | ||
圧縮弾性率(kgf・mm^-2) | - | - | ||
曲げ弾性率(kgf・mm^-2) | - | - | ||
アイゾット衝撃値(kgf・cm・cm^-1) | 1.3から2.1 | - | ||
硬度(硬さ) | ロックウェル | M92から120 | R110 | |
ショア | - | - | ||
熱的性質 | 熱伝導率(10^-4cal・s^-1cm^-2)(K・cm^-1)^-1 | 3.5 | 8.4 | |
比熱(cal・K^-1g^-1) | 0.3から0.4 | 0.3 | ||
線熱膨張率(10^-5K^-1) | 6.8 | 3.3 | ||
熱変形温度(℃) 18.6kgf・cm^-2 4.6kgf・cm^-2 |
88.9 | 167 | ||
電気的性質 | 体積抵抗率(Ω・cm)(23℃、50%RH相対湿度) | 1012から1013 | - | |
絶縁強さ(短時間法)(3.18mm)/kV・mm-1 | 9.8から15.7 | 3.9から9.8 | ||
比誘電率(εγ) | 60Hz | 6.5から17.5 | - | |
MHz | 4.0から5.5 | - | ||
誘電正接(tanδ) | 60Hz | 0.10から0.15 | - | |
MHz | 0.04から0.05 | - | ||
化学的性質、耐薬品性 | 燃焼性、速度(mm・min-1) | - | - | |
日光の影響 | 退色 | 少し暗色化 | ||
弱酸の影響 | 無 | 無〜微小 | ||
強酸の影響 | 無 | 酸化剤に侵される | ||
弱アルカリの影響 | ある程度〜無 | 無 | ||
強アルカリの影響 | 抵抗大 | 分解される | ||
有機溶剤の影響 | ある程度〜無 | 抵抗性あり |
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