炭素繊維メーカーの一覧

2021年1月1日リンク更新

炭素繊維はその成分のほとんどを炭素で構成された繊維で、原料となる繊維を高温で加熱することで炭化させて作られています。原料繊維はポリアクリロニトリル樹脂を原料とする繊維や石油・石炭の副生物であるピッチを原料とする繊維などがあります。JIS規格でも質量比が90%以上炭素で構成された繊維と規定されています。

炭素繊維の種類としては、出発原料が何かによって三つに分けることが出来ます。PAN系、ピッチ系、レーヨン系の三種類です。生産量が最も多いのがPAN系となり、レーヨン系は現在ではほとんど生産されていません。

PAN系炭素繊維は、樹脂であるポリアクリロニトリル繊維を炭素化して製造します。高い強度と弾性率に特徴がある炭素繊維です。現在市場で使われるおおよそ9割はこのPAN系の炭素繊維となります。

ピッチ系炭素繊維は、コールタールなどの石油を精製する際の副産物であるピッチ繊維を炭素化したものです。弾性率や強度を幅広く調整できる点に特徴があり、ピッチの結晶状態によってさらに「等方性ピッチ系」と「メソフェーズピッチ系」の二つに分類できます。

炭素繊維の強度別の分類
  引張弾性率 引張強度
超高弾性率タイプ炭素繊維(UHMタイプ) 600GPa以上 2500MPa以上
高弾性率タイプ炭素繊維(HMタイプ) 350〜600GPa 2500MPa以上
中弾性率タイプ炭素繊維(IMタイプ) 280〜350GPa 3500MPa以上
標準弾性率タイプ炭素繊維(HTタイプ) 200〜280GPa 2500MPa以上
低弾性率タイプ炭素繊維(LMタイプ) 200GPa以下 3500MPa以下

炭素繊維はBMWの「i3」をはじめ、電気自動車の車体の一部として複数のメーカーで採用されているほか、ボーイング787の機体としても採用され話題となりました。何らかの動力を用いて動かす必要のあるものにとって、強度を上げつつ軽量化をはかることは永遠の命題の一つともいえます。軽さはすなわち、燃費の改善や走行距離、航続距離の向上に直結するからです。

こうした用途の場合、炭素繊維は、単体の「繊維」として使われるのではなく、樹脂などに充填され、「強化プラスチック(FRP)」として主に使われます。炭素繊維で強化されたプラスチックは特にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)と呼ばれます。また樹脂だけでなく、金属(FRMもしくはMMC:繊維強化金属)やセラミックスの中に入れられて使われることもあります。

炭素繊維の持つ主な特性としては、次のような性質があげられます。炭素繊維は、鉄と比較すると強度は10倍、重量は約4分の1となります。

  • 低密度
  • 低熱膨張率
  • 耐熱性
  • 化学的安定性
  • 自己潤滑性
  • 高い比強度
  • 高い比弾性率

他にも炭素繊維の用途には、釣竿やテニスラケットなどのスポーツ用品、圧力容器、風力発電、燃料電池、太陽電池、人工衛星、内装材、外装材、橋梁などの構造材、耐震補強材、産業機械部材、人工衛星など軽くて強度が求められるものに幅広く採用が広がっています。

炭素繊維のシェアは世界的に見ても、日本勢が非常に強い分野で、PAN系で見ると、世界シェア首位は東レ、続いて帝人、三菱ケミカル(旧三菱レイヨン)と1〜3位までが国内メーカーとなっています。この三社で世界シェアの凡そ7割を占めています。軽くて強い素材を求める各産業の動向に呼応するように、2010年度時点で、国内メーカーの年間出荷量は16,000トンにもなります。

「軽くて強い」、いわゆる比強度を売りにしている材料は他にもあり、それぞれの素材の持ち味を活かした改良・開発が続けられています。

PAN系炭素繊維メーカー

東レ
大手化学・合成繊維・素材メーカー。トレカのブランド名で知られる炭素繊維を製造販売。PAN系では世界首位のシェアを持つ。形状は、糸、クロス、プリプレグ、短繊維ペレット、長繊維ペレット、カットファイバー、ミルドファイバー、マット、ブレイドなど需要家の用途に応じて豊富なものがある。なお、同製品は輸出貿易管理令別表1から15の貨物に該当するいわゆる「リスト規制品」であり、輸出する場合は経済産業省の許可が必要である。ボーイング787に採用されたことでも話題となった。
帝人
PAN系炭素繊維メーカー。子会社となる東邦テナックスが1975年に量産を開始。同社は帝人へ統合。炭素繊維「テナックス」のブランドを持ち、フィラメント、チョップドファイバー、ミルドファイバー、織物、プリプレグ、ペレットなど形状を取り揃えている。ほかにも耐炎繊維「パイロメックス」、摩耗材用耐炎繊維「テルメックス」、活性炭素繊維「ファインガード」など、炭素繊維製造技術を活かした機能性の高い繊維を製造開発する。同社の製品はエアバスの新型機であるA380で採用されたことでも話題に。

ピッチ系炭素繊維メーカー

三菱ケミカル
ピッチ系炭素繊維である「ダイアリード」を製造販売。最大で銅の二倍にもなる高熱伝導率、アルミよりも軽く、鉄を超える高剛性をもつグレードまで幅広い設計が可能。長繊維、チョップドファイバー、ミルドファイバー、ファブリックのラインナップを持つ。炭素含有率が高く、複合材料の化学的安定性に強み。航空宇宙、建築土木、自動車・車両、産業機材、スポーツ用品などに使われる。
また旧三菱レイヨンが担っていたPAN系炭素繊維も手掛ける。鉄よりも強く、アルミよりも軽い炭素繊維・複合材料「パイロフィル」を製造販売。航空宇宙用品質システム(JISQ9100)の認証を取得。BMW向けに供給したことでも話題に。パイロフィルを用いた中間材料(クロス・プリプレグ)、成形加工品(ゴルフシャフト、印刷ロールなど)の形状でも供給。
日本グラファイトファイバー
ピッチ系炭素繊維メーカー。新日鉄住金グループ。「グラノック(GRANOC)」のブランド名で知られ、形態は糸(ヤーン、チョップド)、織物、プリプレグ(一方向、織物)等がある。世界で唯一の長繊維アモルファスカーボンファイバーTMXN−05をラインナップに持つ。
クレハ
ピッチ系炭素繊維のメーカー。1970年に世界ではじめて炭素繊維の商業生産に成功した。クレカのブランド名で知られ、CFRP(炭素繊維補強プラスチック)をはじめ、アスベストの代替としてブレーキパットなどにも使用。平板や円筒の形状のものは熱処理炉などの工業炉で断熱材としても使われる。中間材料、各種形状のラインナップがある。
大阪ガスケミカル
ピッチ系炭素繊維のメーカー。同社の製品「ドナカーボ」は短繊維タイプで互いに絡みが良い、かさ高く立体的な製品になりやすい、肌への刺激が少なく取り扱いが容易である、等の特徴を持つ。マットやウール、成形断熱材の形状でも供給。電極材料事業、ファイン材料事業、生活環境事業などの事業軸を持つケミカルサプライヤー。石炭化学技術をコア技術とする。大阪ガスグループ。

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