ポリ塩化ビニル(PVC)の素材としての特徴|物性と用途、特性について
PVCは塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニルともいい、塩化ビニル(クロロエチレン)を重合した熱可塑性の非結晶性の無色透明なプラスチックで、略して塩ビとも呼ばれます。PVCには二種の材質、硬質PVCと軟質PVCがあります。軟質系のものはソフビ(ソフトビニールの略)とも言われます。製造過程における可塑剤の添加量を調整することで軟質〜硬質と求める特性にあわせて物性値をコントロールできる特徴を持つプラスチックです。用途としては、住宅建設や土木用が最も多く(約6割近く)、硬質と軟質の比率は2:1程度と言われています。他、工場設備用途が約10%程度、農林水産分野で約5%、車両用途で約6%とされます。
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ポリ塩化ビニルと塩化ビニルの違い
塩化ビニルは化学物質名としてはクロロエチレンとなり、これを重合したものがポリ塩化ビニルです。ポリは、塩化ビニルの分子がたくさんつながっているというような意味合いです。ただし、口語表現では慣用的にポリ塩化ビニルのことを塩ビと読んだり、単に塩化ビニル樹脂と呼ぶため、両者を区別して使っていないこともあります。PVCは英語でpolyvinyl chlorideとなり、すでに「ポリ」の用語が組み込まれているものの、これを単に塩ビと呼ぶ場合もあるためです。
軟質PVCと硬質PVCの違い
硬質PVCと軟質PVCは物性値、特に機械的強度が下表の通りかなり異なります。硬質は軟質に比べかなり頑丈であることがわかります。反面、伸びや吸水率、重さ、比重いずれも違うことがわかります。このことから両者の用途も異なります。
物性 | 硬質PVC | 軟質PVC |
---|---|---|
比重 | 1.35から1.45 | 1.16から1.35 |
吸水率(24時間)(%) | 0.07から0.4 | 0.15から0.75 |
引張強度(MPa) | 44から59 | 5から25 |
引張伸び(%) | 50から150 | 200から450 |
PVCの重合度(分子量)の違い
重合度の違いによりPVCは下表のように使い分けがなされています。重合度を変えることで様々な製品用途へ応用が効くプラスチック材料であることがわかります。酢酸エチル、酢酸ブチルなどの溶液中で重合したものは重合度が低く、150〜となり、接着剤などに使われます。
なお、PVCにはクロロエチレン単独で重合したPVC-S、いわゆるストレートPVCと、他の物質との共重合体であるPVC-Mとがあります。としてもよく使われます。PVC-Mには、プロピレンと塩ビとの共重合体、酢酸ビニルと塩ビとの共重合体などがあります。
平均重合度 | 用途別分類 |
---|---|
150から400 | 接着剤 |
600から700 | 硬質射出成形品 |
700から800 | 硬質フィルム、シート、ボトル |
1000 | 硬質パイプ、一般軟質品、波板 |
1300から1800 | 軟質フィルム、電線被覆 |
2000から4000 | パッキン、床材表面層 |
PVC(塩化ビニル)の特徴
以下に、PVCの代表的な性能について見ていきます。
難燃性で耐熱温度は低め。比重は重たい部類
酸素指数が40〜45であるため難燃性に特長のあるプラスチック材料です。汎用プラスチックの中では燃えにくいため、コスト面からスーパーエンプラなどを使うことができない場合で一定の防火性能が求められる用途に重宝されます。
一方、プラスチックの弱点のひとつである耐熱性については、常用する場合の耐熱温度は60〜80℃と低めです。これ以上加熱する場合、120〜150℃で可塑性となり、物性が低下していき、170℃以上で材料自体が溶融します。190℃以上になると塩酸を出しながら分解していきます(脱塩素反応)。加工する際は、150〜180℃に抑えないと分解してしまうことになります。低温域では、−20℃程度で脆化します。耐寒性も強いとは言い難い素材です。低温になると衝撃に対して弱くなりますので留意が必要です。寒冷地などで住宅建材等として使う場合はこの辺りも留意する必要があります。常温よりも強度が低下しています。
なお、耐熱温度が低いデメリットを克服したCPVC(塩素化塩化ビニル)と呼ばれるグレードもあり、こちらは基本物性はPVCの性能とほとんど違いはなく、そのまま物性も踏襲していますが、耐熱性だけ20から40℃向上させたタイプです。塩ビは耐熱性に難があるため、耐熱パイプや電気製品等の耐熱板、耐熱フィルムに使用することができませんでしたが、このCPVCではそれが可能になります。
硬質PVCの比重は1.35から1.45です。比重は1を超えるため、水には沈みます。これは汎用プラスチックの中では重い部類です。水に浮いてしまっては子困るような用途では重宝します。
耐薬品性や耐水性、耐侯性も良好。着色しやすい
耐薬品性については、耐酸性や耐アルカリ性、耐油性が良好です。アルコール類にも強いですが、ケトン類、エステル類、芳香族炭化水素などの有機溶剤には侵されますので注意を要します。
耐水性や耐侯性にも優れた素材です。
表面の光沢や艶が美しく、印刷にも適した着色しやすい材料です。
安価だが改質材が高い。低温衝撃に難
価格も他のプラスチック材料に比べて比較的安価な部類になります。可塑剤の配合次第で、硬質〜軟質まで幅広いタイプのものが製造できます。可塑剤次第で、多様な物性を持たせることができるという特徴を持ちます。ただし、安定剤・改質材の添加なしでは低温衝撃強度が低いため、ABSやMBS、塩素化ポリエチレンなどを添加することがありますがこれらはPVCそのものより高価になるため、コスト高になることがあります。
電気絶縁性良好でコードに多用
電気絶縁性に優れることから電線被覆やコード、絶縁テープとしてもよく使われます。耐電圧や体積抵抗率にも優れた樹脂材料です。ただ誘電率は大きく高周波絶縁性はよくありません(逆に高周波による溶着が可能になります)。
気体透過、ガスバリア性能
フィルムとして使う場合、汎用プラスチックとしては塩化ビニリデンほどのガスバリア性能は持ちませんが、汎用プラのうちPPやPEよりは気体の遮断性能が高いです。
ソルベントクラックが発生するリスク
硬質PVCを製造する場合、流動性が低いため、金型形状に工夫が必要となります(Rをとる等)。ソルベントクラックと呼ばれる溶剤が加わったときに発生する応力亀裂の一種が発生することがあります。可塑剤のブルームが起きやすく、他の樹脂とあわせて用いる場合など、PCやPMMAといった他の樹脂材料のソルベントクラックの契機になることがあります。
また成形機のポリマーの滞留する箇所では腐食を引き起こすことがあります。
PVCの主な用途
用途としては、上・下水道管、継手、雨樋、波板、サッシ、床材、テレビのキャビネット、壁紙、ビニルレザー、ホース、農業用フィルム、ラップフィルム、電線被覆、パイプ、波板、レガー、フィルム、重合材料など一般消費財から、生産資材まで幅広く使われるプラスチックです。硬質PVCと軟質PVCとでは機械的な強度が違いますので、以下のように使い分けられています。住宅はじめとする建材用途の使用が多いため、PVCに接する機会はきわめて多いといえます。
硬質PVC | 軟質PVC |
---|---|
各種パイプ(下水道や電線管用、農業灌漑用)、建築資材(雨どい、外壁用サイディング、窓枠サッシ、波板)、平板、パイプ継ぎ手、バルブ、ボトル、排水マス | 床材、床タイル、壁紙、車のレザーシート、家具のレザー、人工皮革、テープ、電線被覆、食品包装用フィルム、ホース、靴類、農業用フィルム |
なお、塩素を含んでいるため、焼却処分時に発生するダイオキシンには注意が必要です。
PVCの物理的性質と特性一覧
下表では、耐熱性に優れたCPVCの物性(耐熱性以外はPVCの性能とほぼ同等)と、プロピレンと塩ビとの共重合体の物性を参考までに記載します。
タイプ | CPVC(塩素化塩化ビニル) | プロピレン塩ビ共重合体 | ||
---|---|---|---|---|
物理的性質 | 密度(g・cm^-3) | 1.49から1.58 | 1.28から1.40 | |
融点(℃) | 結晶性 | - | - | |
非晶性 | 110 | 70 | ||
透明度 | - | 透明〜不透明 | ||
吸水率(%)3mm、24h | 0.02から0.15 | 0.07から0.4 | ||
成形特性 | 成形温度範囲(℃) | 218から232 | 176から204 | |
成形圧力範囲(kgf・cm^-2) | 1005から2810 | 562から1410 | ||
成形収縮率(%) | 0.3から0.7 | 0.25から0.35 | ||
機械的性質 | 引張強さ(kgf・mm^-2) | 5.2から6.3 | 3.5から5.6 | |
最大伸び率(%) | 4.5から6.5 | 100から140 | ||
圧縮強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2) | 6.3から15.5 | 5.4から8.2 | ||
曲げ強さ(破壊、降伏)(kgf・mm^-2) | 10.2から12.0 | 7.0から10.8 | ||
引張弾性率(kgf・mm^-2) | 253から334 | 246から316 | ||
圧縮弾性率(kgf・mm^-2) | 234から421 | − | ||
曲げ弾性率(kgf・mm^-2) | 267から316 | 247から354 | ||
アイゾット衝撃値(kgf・cm・cm^-1) | 5.4から30.5 | 1.9から174 | ||
硬度(硬さ) | ロックウェル | R117から122 | M18から55 | |
ショア | - | - | ||
熱的性質 | 熱伝導率(10^-4cal・s^-1cm^-2)(K・cm^-1)^-1 | 3.3 | - | |
比熱(cal・K^-1g^-1) | 0.33 | - | ||
線熱膨張率(10^-5K^-1) | 6.8から7.6 | 10から15 | ||
熱変形温度(℃) 18.6kgf・cm^-2 4.6kgf・cm^-2 |
94から112 | 65から76 | ||
電気的性質 | 体積抵抗率(Ω・cm)(23℃、50%RH相対湿度) | 1015 | 1×1016 | |
絶縁強さ(短時間法)(3.18mm)/kV・mm-1 | 48から59 | - | ||
比誘電率(εγ) | 60Hz | 3.08 | 3.1から3.7 | |
MHz | 3.2から3.6 | 2.8から3.3 | ||
誘電正接(tanδ) | 60Hz | 0.018から0.020 | 0.008から0.010 | |
MHz | 0.020 | 0.015から0.025 | ||
化学的性質、耐薬品性 | 燃焼性、速度(mm・min-1) | - | - | |
日光の影響 | わずか | わずか | ||
弱酸の影響 | なし | なし | ||
強酸の影響 | なし | なし〜わずか | ||
弱アルカリの影響 | なし | なし | ||
強アルカリの影響 | なし | なし | ||
有機溶剤の影響 | 抵抗〜溶解 | PVAと同等。 |
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