アラミド繊維の種類と強度、耐熱温度|その特徴と欠点まで

2022年1月5日更新

アラミド繊維は大きく2種類に分けられますが、化学繊維の中でも高性能繊維・高強度繊維であるスーパー繊維の一つとして知られ、一般には東レ・デュポン社の商標であるケブラー(パラ系アラミド繊維)やデュポン社のノーメックス(メタ系アラミド繊維)、帝人テクノプロダクツのトワロン、コーネックス、テクノーラ等の固有名称で知られます。

アラミド繊維の種類と強度、耐熱温度|その特徴と欠点まで|目次
  1. 特徴
  2. 用途
  3. 欠点
  4. メタ系アラミドとパラ系アラミドの違い

特徴

耐熱性と強度

種類によりますが、アラミドの耐熱温度は融点で見ると400〜500℃にも達します。強度は高温になるほど弱くなるのが素材の原則ですが、アラミド繊維は高温環境でも一定の強度を保ったり、被服としての耐熱性を発揮して着用者を保護したりといった特徴を持ちます。平時でも、高強度タイプともなれば3400 MPaもの引張強度を持ちます。高弾性率タイプでは、引張弾性率(cN/dtex)780に達します。

比重

比重は後述する通り1.4前後のものが多いです。軽いですが、水に浮くというほどまではいきません。

公定水分率

水分率は相対湿度により大きく変わるものの、3.5%〜7%前後でナイロンとほぼ同等となります。吸湿性は、相対湿度が高いほど上がりますが、グレードにより1.5%〜7%前後とされます。天然繊維と違い、水分の含有や吸湿の有無で強度は変わらないとされます。

繊維は、プラスチック等の塊と異なり、きわめて細長い特殊な形状をしていることから表面積も多く、取引の段階で重量をはかる際、すでに水分を吸ってしまっています。このため、繊維によってどのくらいを水分量として見るか繊維ごとに定められています。

衣服、布、ロープ等の吸水性は繊維が糸に加工され、糸が布やロープ等に加工されるため、形状なども深くかかわりがありますが、公定水分率も繊維自体のもつ吸水性能を見るひとつのパラメータということもできます。

ただし、「耐熱性」「難燃性」「高強度」「高弾性率」という4つの主要特徴を他のスーパー繊維と比較検討すると、アラミドはそれらすべてにおいて突出している性能があるわけではなく、中程度の性質ということになります。コストとのバランスを見ながら材料選択を行っていくうえでは、そこまで突出した性能が要るかという点も考慮していきたいところです。

主要4特性のほかには、何と比較するのか程度に差はありますが、耐薬品性、耐衝撃性、耐湿熱性、低発煙性、燃焼ガスの低毒性、耐低温性、遮熱性、耐スパッター性、耐摩擦性、耐結露性、摺動特性、自己潤滑性、断熱性、音響特性、電気絶縁性、耐放射線性といった性質を持ちます。

アラミド繊維の構造

ナイロン6やナイロン66などのポリアミド繊維は、脂肪族ポリアミドに分類されますが、アラミド繊維は芳香族ポリアミドに分類されます。したがって、アラミド繊維もナイロンの一種であるという言い方がなされます。

主としてCH2が連なった分子からできているポリアミドがナイロンであり、ベンゼン環が連なった分子からできているポリアミドがアラミドということになります。このアラミド樹脂を繊維状に加工したものがアラミド繊維です。分子が直線状の構造をとるため、強度に優れる繊維となります。

なお、同じ系統のアラミドでもメーカーによって分子構造が異なります。これが性能の違いも生み出しています。

用途

アラミドの用途は軽くて、難燃性、耐熱性、高強度という特徴を活かしたものが多いです。身近なものでは、下表にご紹介の通り、スマホケース、ロープ、ロッド、防刃手袋、消防服、防火服、防弾チョッキ、ジャケット各種、焼却炉のばい煙除去のためのバグフィルター、OA用クリーナー、工業資材などでの用途があります。

アラミド繊維の用途別の採用例
用途 採用理由
防刃手袋 工場や軽作業、災害現場でも使用。一見するとただのカラー軍手にも見えますが、鋼鉄の5倍以上の強度を持つ繊維ということからも軍手なら手に切り傷ができてしまう怪我でも防げる場合が多々あります。貫通には弱いですが、横にひく動作での切り傷予防に効果があります。
スマホケース スマートフォンの本体のケースに使用されることもあります。軽さと強度を見込んでの採用例です。繊維を編み込むことで、衝撃を和らげる工夫がなされているスマホケースもあります。繊維だけだと単なる布ケースになってしまうので、樹脂材料と組み合わせて使われることがほとんどです。多分にアラミドの性能を活かしきる用途ではないので、ファッション性に重点が置かれた使われ方です。
消防服、防火服 難燃性、耐熱性を見込んだ用途です。燃えにくいだけでなく、高温でも強度を保ち、着用者を熱から保護するという性能を持ちます。この用途では高強度というよりは着用者を高温から守ることが主眼とされていますので、それに適した種類のアラミドが採用されます。各社特徴を持つグレードを消防用として販売しています。
防弾チョッキ 他の素材と複合的に組み合わされて使用されることがあります。こちらは耐熱というよりは軽さと強度、つまり比強度の高さが見込まれて採用されている一例です。消防と並び、軍や警察といった過酷な環境での使用が想定されるもので、素材の信頼性が問われます。
屋根の複合材 火山弾対策として屋根材にアラミド繊維を使うケースがあります。強度と軽さのほか、高熱を帯びたものでも耐熱性があるので溶けたり強度がなくなったりしないという性能を見込んだ採用例です。

欠点

メタ系アラミドは、難燃性が要求されるインテリアや衣料の分野では、衣料特性、着色性(染色性)、耐光堅牢度が必要となりますがいずれも汎用繊維に比べて劣る傾向があります。耐熱性や難燃性を前面に押し出した用途ではないとなかなかコストメリットも見出しづらいのが欠点ですが、他の汎用繊維と混紡されてこれらのデメリットを補う使い方をされることがあります。

パラ系アラミドは、引張強度や弾性率に優れているとはいえ、さらに強い素材は他にもあり、高強力、高弾性率の特徴と耐熱性を絡めたメリットを見いだせないと、単純な強度だけでは他のスーパー繊維に比べて目立った性能が見えづらい欠点があります。

他、欠点というほどのものではないですが、被服、服飾用途として使用する場合、手入れの面における注意点としては次のようなものがあります。ナイロンに似通っている部分があります。

  • 直射日光を避ける必要がある。長時間さらされると変色することがある。
  • タンブル乾燥機には適さない。日陰吊り干しが推奨されています。
  • しわが残りやすい素材であるため、手絞りするにしても弱く。遠心脱水機も短時間での実施要。
  • 濡れた状態で高温・多湿環境に放置すると色移りすることがある。

メタ系アラミドとパラ系アラミドの違い

アラミド繊維にはメタ系とパラ系という大きく2種類があります。メタとパラの違いというのは、ベンゼン環がどこにくるのかという化学構造の違いであり、一言でいえばメタ系アラミドは耐熱性と耐薬品性に優れ、パラ系アラミドは引張強度の強さ、弾性率の高さといった機械的強度に優れるという違いがあります。

もっとも昨今は互いの欠点を補完するようなグレードも出てきており、メタとパラを入れ替えて使用しても差し支えないものもあります。また他の繊維と複合的に組み合わせて使用する混紡も盛んに行われており、高機能繊維同士をあわせたり、価格の安い汎用繊維と混紡させて性能のバランスや欠点を補う使い方をされることがあります。

メタとパラの違い
アラミドの種類 特徴
メタ系アラミド 耐熱性、耐薬品性に優れる
パラ系アラミド 機械的強度に優れる
 

メタ系アラミド繊維

引張強度、伸び、弾性率、密度、風合いといった特徴はポリエステル等の汎用繊維とほぼ同等性能を持ちます。そのうえで、400℃以上まで溶解・分解しないという耐熱性が付加されています。また、空気中では燃えない性質があります。仮に無理に燃やした場合でも毒性の物質はほぼ出ないという繊維です。

耐熱性と難燃性を併せ持ちます。焼却炉のばい煙除去のためのバグフィルター、排気フィルター、排ガス集塵フィルター、濾過フェルト、スピーカーコーン、テープ、スリーブ、積層板のクッション材、自動車用のVベルト・ホース・ダイヤフラムなどの補強材、パイロットスーツ、迷彩服、防火服、防炎外套、救助服、作業服、溶接作業服、手袋、航空機シート(ファイヤーブロッキングレイヤー、シートカバー等)、レーシングスーツ、アウトドア衣料、絶縁材料、OA用クリーナー、工業資材全般で使用されることがあります。

物理的性質

帝人 コーネックス(Teijin-conex):メタ系アラミド
密度(g/cm3) 1.38
引張強度(GPa) 0.51から0.86
引張強度(N/tex) 0.37から0.62
引張強度(cN/dtex) 3.7から6.2
引張弾性率(GPa) -
破断伸度 28から45%
分解、溶融点 400℃未満
水分率 5.3%

パラ系アラミド繊維

高強度タイプのナイロンのさらに2.5倍もの強度を持ちます。同じ重量の鋼鉄に比べても5倍もの強度の誇るため、軽さのわりにどれくらいの強さがあるかを見る比強度の面では極めて優れた素材の一つです。

原料はPPTA(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)となります。PPTAにさらにジアミンを共重合させたタイプもあり、こちらはテクノーラとして知られ、強度と耐熱性を両立させた高性能繊維です。500℃近くまで分解せず、250℃でも常温の半分以上の強度を保てるという特性を持ちます。200℃で長時間使用可能という稀有な繊維です。高温下でも強度が必要な用途に適しています。

用途としてはタイヤコード、自動車・バイク・ベルトコンベヤなどのベルト、Vベルト、タイミングベルト、防弾服、防弾チョッキ、防火、防炎、耐熱用の防護服、安全靴、安全作業衣、ヘルメット、耐熱ベルト、鉄筋代わりの補強材、アスファルト補強材、沈下防止材、耐熱フェルト、アスベスト代替材料としての自動車用ブレーキパッド、防刃手袋、ケース、糸、ロープ、ケーブル等海洋用途、パイプ、トラフ、ロッド、漁網、安全ネット、ライダースーツ、エンジンガスケット、カーテンウォール、床材・天井材、潤滑部材、航空機部品、スポーツ用品、ヨットセール、パラシュート、テント、カバン、スマホケース、ケーシング等が知られます。

繊維強化プラスチック(FRP)の強化繊維としても使われます。

物理的性質

帝人 トワロン(Twaron):パラ系アラミド繊維
密度(g/cm3) 1.44から1.45
引張強度(GPa) 2.7から3.6
引張強度(N/tex) 1.9から2.5
引張強度(cN/dtex) 19から25
引張弾性率(GPa) 60から145
破断伸度 2.3から4.2%
分解、溶融点 500℃
水分率 2から7%
帝人 テクノーラ(Technora):パラ系アラミド繊維
密度(g/cm3) 1.39
引張強度(GPa) 3.2から3.5
引張強度(N/tex) 2.3から2.5
引張強度(cN/dtex) 23から25
引張弾性率(GPa) 65から85
破断伸度 3.9から4.5%
分解、溶融点 500℃
水分率 1.9%
東レ・デュポン ケブラー:パラ系アラミド繊維 Kevlar 29(標準タイプ)
密度(g/cm3) 1.44
水分率(%) 7.0
引張強度 cN/dtex:20.3
引張強度 MPa:2920
破断時伸度(%) 3.6
引張弾性率 cN/dtex:490
引張弾性率 MPa:70500
融点 なし
分解温度 約500℃
東レ・デュポン ケブラー:パラ系アラミド繊維 Kevlar 49(高弾性率タイプ)
密度(g/cm3) 1.45
水分率(%) 3.5
引張強度 cN/dtex:20.8
引張強度 MPa:3000
破断時伸度(%) 2.4
引張弾性率 cN/dtex:780
引張弾性率 MPa:112400
融点 なし
分解温度 約500℃
東レ・デュポン ケブラー:パラ系アラミド繊維 Kevlar 119(高伸度タイプ)
密度(g/cm3) 1.44
水分率(%) 7.0
引張強度 cN/dtex:21.2
引張強度 MPa:3100
破断時伸度(%) 4.4
引張弾性率 cN/dtex :380
引張弾性率 MPa:54700
融点  なし
分解温度  約500℃
東レ・デュポン ケブラー:パラ系アラミド繊維 Kevlar 129(高強度タイプ)
密度(g/cm3) 1.44
水分率(%) 7.0
引張強度 cN/dtex:23.4
引張強度 MPa:3400
破断時伸度(%) 3.3
引張弾性率 cN/dtex:670
引張弾性率 MPa:96600
融点 なし
分解温度 約500℃

繊維の種類と特徴

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