ポリ乳酸繊維の特徴|用途や欠点、強度、洗濯方法まで
ポリ乳酸繊維とはPLA繊維ともいいますが、トウモロコシ・イモ類のデンプンを発酵させて作った「乳酸」を重合させて作られる「ポリ乳酸」を紡糸して繊維状にしたものです。分類としては合成繊維になりますが、植物由来の原料であり、土中の微生物によって分解されるため、生分解繊維とも言われます。最終的には水と二酸化炭素にまで分解されます。この辺りは石油由来の合成繊維とはかなり異なりますが、原料は天然で生分解できるものの、その製法は化学合成によるものであるため、合成繊維として分類されます。以下にこの繊維の特徴や強度、耐熱温度といった物性から洗濯方法まで見ていきます。
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ポリ乳酸繊維の性質と特徴|衣服はドライでシルキーな風合い
服に用いられるポリ乳酸繊維はシルキーな風合いと光沢を持っており、やわらかいタッチが特徴です。またポリエステルのようなドライな肌触りとなります。ポリエステルとナイロンのちょうど中間のヤング率=弾性率を持ちますのでこのような性質が出てきます。
繊維として、基本的な物性や加工性は合成繊維としては劣っているわけではありませんが、融点が170℃であるため、比較的耐熱温度が低い部類になり、アイロン掛けには注意が必要です。
公定水分率は0.57であり、吸湿率はポリエステルと同等であるためかなり低い部類で、強度や伸度も同等レベルです。一見、乳酸が原料で、生分解する、加水分解するとなると強度面が十分か気になるところですが、ポリエステルと同等ということからも強度に不安がある材料ではありません。ヤング率は前述の通りポリエステルとナイロンの中間となります。
天然系由来の原料で吸湿性、吸水性の低い材料というのは利用価値が高い利点の一つです。綿や毛ではこうした低い吸湿率は出せません。
ポリ乳酸繊維のメリット、デメリット
ポリ乳酸繊維のメリット
原料が天然に存在する乳酸であり、生分解できることが最大のメリットです。形状崩壊するのに要する期間は3〜5年と言われますが、高温多湿やアルカリ環境下であるとこの進み具合がはやくなることが知られています。繊維の製造過程で、分解のしやすさもある程度コントロールできるとされます。
昨今問題となっている廃プラの問題についても化繊が海洋ごみ等の環境負荷の問題が取りざたされています。生分解繊維はこれら解決の糸口とも言われる技術の一つです。
天然素材から作られているにもかかわらず、吸湿性の低さやドライでシルキーなタッチもメリットの一つといえます。
ポリ乳酸繊維の欠点
ポリエステルと比較すると、価格が高い点がまず挙げられます。また、こうした使用頻度が多くポピュラーな合成繊維に比べると加工性に劣る点が欠点とも言えます。自然に分解するという点にどこまで付加価値があると見るかです。
脂肪族ポリエステルの一種であることからアルカリにも極めて弱い点がネックです。したがって塩素系のものは大敵です。
土壌中で乳酸に分解され、最終的には水と二酸化炭素へかえっていくというエコ繊維ですが、加水分解しやすい点が実用面でのデメリットとされることもあります。ポリ乳酸を生分解性のプラスチックとしてみた場合、分解速度は比較的ゆっくりな部類になります。この点もはやい分解を期待している場合には欠点にもなってしまいます。
主な用途
人体にも存在する「乳酸」から作られている繊維であるため、生体適合性が高く、開発され上市されたころから「縫合糸」としての用途でも使われてきました。これは手術後も抜糸が不要で体に吸収されていくタイプの「吸収性縫合糸」となります。また人の体内で使う組織再生用の支持材料、例えば骨片接合用のスクリューやピンとしても活用されてきています。
PGAと共に、生体内で安全に分解吸収する合成高分子材料として位置づけられています。
また土壌で分解できることから回収の必要や環境負荷をあまり考える必要がないことから農業用や園芸用の糸としても利用されています。また産業資材としての用途もあります。
ウールや綿との混紡も可能であり、エコを前面に出した製品としても広がっています。風合いがポリエステルのようであっても原料が乳酸であり、ウールや綿といった天然の原料を用いている共通性があり、石油化学由来の化学繊維に比べて廃棄時の環境負荷低減が期待されています。
主要メーカー
日本国内のポリ乳酸繊維の主要メーカーは下表の通りです。古くは、鐘紡の「ラクトロン」がこの分野の先駆けでしたが、東レへ事業譲渡されています。
商標ブランド名 | メーカー名 |
---|---|
テラマック | ユニチカ |
ジオダイナ(旧プラスターチ) | クラレ |
エコディア | 東レ |
洗濯方法
ポリ乳酸繊維を使った衣服の表示は、指定用語での表示が認められており「ポリ乳酸」と表示されるのが正しい方法です。したがって洗濯前に確認可能です。
ポリ乳酸の強度についてはポリエステルとほぼ同等の引張強力を持ち、洗濯についても家庭用の洗濯機での繰り返し洗濯が可能な繊維です。
融点が比較的低い繊維であるため、洗濯も40℃程度の温度が上限として推奨されています。また上述した通りアルカリに極度に弱いため、洗剤は中性洗剤を使う必要があります。
遠心脱水も普通に使うことができますが、乾燥については耐熱温度の低さがネックの繊維であるため、タンブラー乾燥は避けたほうが無難です。
アイロンがけにも向かないですが、もし行う場合はあて布をして100℃を超えないよう注意が必要です。
漂白については塩素系漂白剤の使用を避けるべき繊維です。塩素系の薬剤は、繊維が溶解してしまいます。
高温多湿でアルカリ環境に置くと分解していきます。
ポリ乳酸繊維の物性|比重、融点、吸湿性、引張強力、伸度、ヤング率、染色温度
下表にポリ乳酸繊維の先駆けとなったラクトロンの基本物性をまとめたものを掲載します。ポリエステルとナイロンと比較していくとその違いも見えやすいかと思います。(引用元:ポリ乳酸系生分解性樹脂・繊維 近藤義和『繊維工学』Vol.49, No.10 (1996))
項目/繊維 | ポリ乳酸繊維 (ラクトロン) |
ポリエステル | ナイロン |
---|---|---|---|
比重 | 1.27 | 1.38 | 1.14 |
屈折率 | 1.4 | 1.58 | 1.57 |
融点(℃) | 175 | 260 | 215 |
ガラス転移温度(℃) | 57 | 70 | 40 |
吸湿率(%) | 0.5 | 0.4 | 4.5 |
燃焼熱(cal/g) | 4500 | 5500 | 7400 |
引張強力(g/d) | 4.5から5.5 | 4.5から5.5 | 4.5から6.0 |
引張伸度(%) | 30 | 30 | 40 |
ヤング率(kg/mm) | 400から600 | 1200 | 300 |
染料の種類 | 分散染料 | 分散染料 | 酸性染料 |
染色温度(℃) | 100 | 130 | 100 |
繊維の種類と特徴
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