毛繊維の種類と特徴|ウール、アンゴラ、カシミヤ、モヘヤ、らくだ等の獣毛の特徴と強度、吸水性、キューティクルなどの特性

2016年1月3日更新

毛は天然繊維のうち、動物繊維に分類される繊維です。動物繊維はその出自によって、毛、絹、羽毛にわけることができますが、毛は主として獣毛から採取される繊維となります。具体的には、ウールやメリノウールと呼ばれる羊毛、アンゴラ、カシミヤ、モヘヤ、らくだ、チンチララビットなどです。毛皮としての利用もありますが、ここでは体毛を刈り取って繊維から糸、毛織物等へ加工して利用する場合について見ていきます。

動物の体毛はそもそも過酷な環境に耐えられるよう進化したものであるため、外気の変化に耐えられるだけでなく、機能的に優れた構造を持ちます。

獣毛の種類|毛の繊維表示について

まず、毛の繊維の利用については法令で表示方法について定めがあります。ウール=すべての毛と誤解されることもありますが、ウールは羊毛だけを意味しています。下表に、毛を由来とする衣服の繊維名の表示にどのような指定用語が使われるかをまとめています。

基本的に、「毛」というのはすべての表示に使えますが、これでは差別化がはかれないため、高級品であることをしめす等の理由で具体的にどの獣毛かを示すことが多いです。

羊毛製品に見られるウールマークは世界共通の品質基準を満たしたウール製品につけられるものでAWI(オーストラリアン・ウール・イノベーション)が基準を制定したものです。

毛の繊維表示のバリエーション
衣服に表示可能な指定用語 繊維の種類
毛、羊毛、ウール、WOOL 羊毛
毛、アンゴラ アンゴラ
毛、カシミヤ カシミヤ
毛、モヘヤ モヘヤ
毛、らくだ、キャメル らくだ
毛、アルパカ アルパカ
その他のもの

毛の性質と特徴

獣の毛というのは、その動物が成育している環境に耐えられるよう進化したものであるため、外気の変化に耐えられるだけでなく、機能的に優れた構造を持つものが多いです。保温性はもちろんのこと、熱くなりすぎないような性質、吸水や吸汗性能が着目されるのもこうした所以です。

毛繊維の構造|キューティクルの役割

繊維の側面は、キューティクルやスケールと呼ばれる鱗片で覆われています。これが毛の繊維の最大の特徴でもありますが、人の髪の毛にもこのキューティクルはあります。

毛をからませてフェルト化することを縮絨(しゅくじゅう)といいますが、これはキューティクルが互いにからんで解けなくなることでおきる現象です。石鹸をはじめとするアルカリ性の溶液にひたすとキューティクルが開いてこの現象が促進される性質があります。このキューティクルは主として毛の繊維としての機械的強度に関係があります。

いわゆる毛の「ちくちく感」というのは、繊維が一定以下の大きさになると体感しやすくなるといわれるため、この繊維の大きさを調整したものは、肌着として用いてもこうした感触がありません。キューティクルがある繊維がちくちくする、というわけではありません。

なお、ウールの場合、吸水性のよい層と低い層の二層構造をもち、独特の縮れを持ちます。

毛繊維の長さ、太さを表す単位

毛糸の太さを示すにはメートル番手が使われます。これは標準重量1000グラムで、標準長1000メートルあるものを1番手とする表記です。

獣毛は短繊維であるため、紡績によって糸になっていきます。このため、恒重式繊度が使われます。

毛繊維の用途

セーターやスーツ、パンツをはじめとする衣服、織物、敷物、毛布、保温用途で多用されます。珍しいところでは、砥石の仕上げなどに使うバフと呼ばれる工具には、獣毛をまぜることがあります。またブラシ類やフィラーとして使うこともあるため、天然繊維としては比較的工業的に用いる機会が多い部類の繊維となります。

毛のメリット、デメリット

獣毛も古くから衣類に使われてきた天然繊維のひとつです。動物が環境に適用するために発達させてきた器官でもあり、驚くほど汎用性に優れています。

毛繊維のメリット

羊毛は、繊維が縮れているため、フェルト化して縮みやすい性質を持ちます。弾力性伸縮性、保温性、吸湿性に優れるとともに、弾性回復量が大きいのでしわになりにくい素材です。また、難燃性でもあり、繊維の大きさによっては肌触りが良い繊維でもあります。

保温性に優れるため、冬物に最適ではありますが、近年はウールの中でも高級品種となるメリノウールは登山ウェアとしても多用されています。これは吸水性、吸汗性能、や防臭性能の高さを買われてのことで、暖かいことはもちろん、ベースレイヤーと呼ばれる肌に近い部分に着込む衣服としても適しているとされます。

毛繊維のデメリット

毛の繊維は、水への膨潤が大きく、繊維が絡みあうため水洗いが難しいという点がありますが、近年は防縮加工されたものもあり、水洗いが容易になりつつあります。ただ虫害が発生しやすいため、何らかの防虫剤などで保管・管理が必要になってきます。

毛の性能

次に毛繊維の物理的性質や、化学的性質について見ていきます。

毛繊維の比重

天然繊維としてはもっとも軽い部類で、比重は1.32となります。

毛の公定水分率

繊維は、プラスチック等の塊と異なり、きわめて細長い特殊な形状をしていることから表面積も多く、取引の段階で重量をはかる際、すでに水分を吸ってしまっています。このため、繊維によってどのくらいを水分量として見るか繊維ごとに定められています。

衣服、布、ロープ等の吸水性は繊維が糸に加工され、糸が布やロープ等に加工されるため、形状なども深くかかわりがありますが、公定水分率も繊維自体のもつ吸水性能を見るひとつのパラメータということもできます。

公定水分率についても、天然繊維としてはもっとも高い15%となります。よく水を吸うことがわかります。

毛の耐熱性

一般に熱に強いイメージもありますが、成分がタンパク質であることから耐熱性はそこまで高くはありません。

毛の持つ耐熱温度、どのくらいまでの熱に溶けないか、軟化しないか、外気に野ざらしにした場合の耐候性について下表にまとめました。

天然繊維のなかでは難燃性ではあるものの、絹に次いで熱に弱い素材です。

毛の耐熱温度
耐熱性、耐熱温度 軟化点 軟化、溶融は観察されない。
溶融点 130℃で熱分解、205℃前後で焦げる。
耐候性 外気への長時間曝露で強度低下。染色性についても若干低下

毛の引張強度

どのくらいの力まで引っ張っても千切れることがないかを示す引張強度については、繊維の場合、乾燥した状態と湿った状態とでは性能が異なります。

よく伸びる繊維ですが、強度については弱く、負荷のかかる用途や摩擦が起きる箇所での使用には向いていません。天然繊維としては、もっとも弱い部類となります。

毛の引張強さ|湿強度、乾強度、伸び率
繊維の種類 引張強さ(cN/dtex) 伸び率(%)
乾燥 湿潤 乾燥
0.9から1.5 0.7から1.4 25から35

毛の化学薬品への耐性|耐薬品性と特殊溶剤

特殊溶剤は、この繊維を溶解させる特殊な溶剤が何かを示しています。

繊維自体を溶かす作用をもつ薬品が何かを下表にまとめました。苛性ソーダは水酸化ナトリウムであり、強アルカリの代表的なものとなります。塩酸、硫酸、蟻酸、酢酸などいずれも酸性となります。

毛は強アルカリに弱い性質を持ちます。

毛の耐薬品性
苛性ソーダ(5%、煮沸) 溶ける
塩酸(20%、室温) 溶けない
硫酸(70%、室温) 溶けない
ギ酸(80%、室温) 溶けない
氷酢酸(煮沸) 溶けない
特殊溶剤

繊維の種類と特徴

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