アレルギーの原因金属は合金元素の場合も|金属に触れる際に知っておきたいこと

2013年1月5日作成 2024年8月5日最終更新 Written by 金属加工事業部

金属アレルギーとは、特定の金属に触れることで皮膚がかぶれたり、湿疹ができたりする症状で、個人差があるものの、アレルギー症状が出たままほうっておくと、余計に金属に対してのアレルギー反応が強くなることもあります。この記事では、金属を取り扱う成分の側面からこの現象を見ていきます。

どの金属に対してのアレルギーなのかを早期に特定して、その金属に触れない、摂取しないようにすることが一番です。皮膚科やアレルギー症状を扱う病院では、パッチテストと呼ばれる原因物質特定のための検査も行っています。特に金属加工を行う場合は、純金属の加工は稀で、金属材料の多くにはたいてい合金元素をはじめ、さまざまな金属成分が混ざっています。「ステンレス」といっても、この中には錆に強くするためにニッケルやクロムが入っています。「金」といっても純金以外は他の金属との合金で、メッキにも別の金属が使われます。この中の一つでもアレルギー物質となると、症状が出ることもあります。

つまり、知っておくべきは自身がどの金属元素に対して反応するのかという点と、触れる対象となる金属にどのような元素が含まれているかという2点が必要です。後者は、名称だけからではわかりませんので調べる必要があります。というのも昨今は不純物の入っていない純金属というのは強度や加工面から、皮膚へ触れるという用途としてはあまり使われず、ほとんどの金属は「合金」の形にして使うので、入っている成分に着目しないとなぜかぶれるのかわからないことがあります。

アレルギーの原因金属は合金元素の場合も|金属に触れる際に知っておきたいこと|目次
  1. 起こしやすいのは17種類の金属元素
  2. アレルギー原因金属の主な用途|鋼材へも添加
  3. 金属アレルギーを起こさない、起こしにくいもの

起こしやすいのは17種類の金属元素

原理としては、皮膚に直接触れる金属が微量ずつ溶け出しており、これが体内に皮膚を通じて入り込み、人の免疫機能により異物として認識され、その金属に触れるたびにアレルギーを起こしてしまうというものです。このため、より長く、直接触れるタイプの金属製品について起きやすくなっています。

金属アレルギーは、すべての金属について起きるというわけではなく、個人差もありますが、おおむね17種類のものがアレルギーの元とされており、その中でもより多くの人がかぶれる金属とそうではないものとがあります。

主要な金属アレルギーを起こすものとしては、鉄、白金、金、銀、銅、亜鉛、水銀、クロム、ニッケル、イリジウム、インジウム、マンガン、パラジウム、錫、コバルト、アルミニウムがあります。汎用的にどこにでも使われているものから、あまり有名ではないものの日常的に使われる製品に含有するものもあります。

特に金属アレルギーを起こしやすい金属としては以下のものがあげられます。

 

アレルギー原因金属の主な用途|鋼材へも添加

水銀
常温では液体の金属で、昔は体温計にも使われており、身近なものではありましたが、現在は環境への負荷などもあり代替可能なものがある場合は、電子部品などにも水銀を使わない傾向にあります。意図せずに混入している場合などは、それだけでも金属アレルギーの原因となることもあります。
ニッケル
金メッキなどのメッキ層と母材との間に密着力を高めるためにメッキすることがありますが、ニッケルはこうした用途でよい性能を持つため、金属成分に含まれていなくとも含有していることがあります。電着工具に用いる主要なメッキも、ニッケルメッキになります。またステンレスの中でもクロムニッケル系ステンレスの成分にも含まれます。工業的に利用される金属には、強度とともに非常に高い耐熱性や、耐食性、耐海水性などが要求されることがありますが、こうしたときに使われる高価な材料として、ニッケル合金があります。工業的には、ニッケル系合金は高価なものですが、金などの貴金属に比べると安いため、宝飾の世界では金色の装飾部分の代用品としても使われています。
クロム
クロムを12%以上含んだ鋼は「ステンレス」と呼びます。さびにくいことから日常的にも多く使われています。鋼はクロムを加えることで錆びにくくなり、ニッケルを加えることで耐食性が向上することから、両者ともよく利用される金属です。特にアレルギーに影響するのは安定した三価クロムではなく、環境への問題も深刻となっている六価クロムとされます。六価クロムは、多くの製品で使用をやめたり、規制(EUのRoHS指令など)があるのですが、一部の工程で使うことがあり、微量でも深刻な影響を及ぼします。
コバルト
金属材料へ添加することで、粘り強さ、靭性、耐熱性や耐食性の向上につながることから、高速度鋼、工具鋼などの鉄鋼材料に添加されています。なお、メタルボンドの砥石にもコバルトを使います(カーボニル鉄で代用するケースもありますが)。

その他、人によっては耳慣れない金属かもしれませんが、インジウムはITO(酸化インジウムスズ)として、透明導電膜に多用されるため、液晶ディスプレイやタッチパネルに含有しています。またパラジウムは、貴金属の合金材料として一緒に添加されていることが多い素材です。

反対に、生体親和性が高いことでも知られるチタンは金属アレルギーの原因とはならないといわれています。他にも、タンタルやジルコニウムなどのセラミックスとしても使われる元素に由来するもの、金、プラチナ、銀などは比較的アレルギーを起こしにくいとされますが、これも個人差があります。

金属アレルギーを起こさない、起こしにくいもの

  • チタン
  • 純粋な白金(プラチナ)などで、メッキなどにより上記の物質を使っていないもの(人によっては高純度の貴金属でもアレルギーとなることもある。ただし比較的稀。)

また、食品に含有する成分としてもアレルギーが発症することも知られていますので、ある特定の金属にアレルギーがあるのであれば、その金属分を微量に含む食品の摂取も避けるべきです。

金属加工では切削、切断、研削、穴あけ加工など、金属粉が多く飛び交い、場合のよっては素手で金属を触れることもあります。何かの金属を扱うことでかぶれや湿疹などが出るようならば、なるべく早くに原因金属を特定して、直接触れないように対策する必要があります。専門医の診察を受け、職場にも金属アレルギーのことを理解してもらうことが大切です。我慢してどうにかなるものではなく、放置すると悪化していきますので、こうした症状の疑いがあるならすぐに対処すべきです。

加工している金属にどのような元素が含まれているかは材料規格から調べることができます。これがわからないと、パッチテストでアレルギーとなる金属がわかっても避けようがないので、成分表を確認したり、作業環境で飛び交う金属粉が何かを調べる必要があります。

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