紛争鉱物に関する調査対応の方法|コンフリクトミネラルとは
紛争鉱物とは
英語ではConflict Mineralと呼ばれる「紛争鉱物」に関する調査依頼が客先から急増しているという話をよく聞きます。これはアフリカのコンゴ紛争の原因ともなっている「武装勢力が資金源としている鉱山に由来の鉱物資源を原料として使っていないかどうか」を調査する為のものです。紛争鉱石とも呼ばれることがあります。
最終的には、こうした武装勢力の資金源を断つことを目標とし、アメリカ内の法律によって米国の上場企業にはこの紛争鉱物の利用状況についての情報開示が毎年1回義務付けられるようになったため、その対象企業のサプライヤーへも調査対応が求められるようになったという経緯です。
紛争鉱物調査の持つ意味
なぜ米国の上場企業がアフリカの紛争と関係があるのかといえば、米国が進めている人権の尊重(一部の鉱山では他の国ではとうてい認められない強制労働や非人道的なことが行われている)や武装勢力への武器供給の遮断、テロリスト等への資金源の供給路を絶つ等の思想に基づくものです。
こうした流れは米国だけに限りませんが、自国の企業に対して報告義務を課した法律を作っている国はアメリカのみとなっています。
したがって、この紛争鉱物調査の依頼というのは、おおもとをたどっていくと、米国企業が米国証券取引委員会(SEC)へ報告義務があるため、その1次サプライヤーから芋づる式に、製錬業者へ遡れるところまで遡っていく調査と言えます。
トレーサビリティをどうやって確保するのか
鉱物は多様なものに使われており、トレースするのは一見不可能に思われますが、この紛争鉱物に関する調査では、武装勢力とかかわりのない「製錬業者」をコンフリクトフリーの業者としてリスト化しています。
鉱山からスタートしてユーザーまでのルートの把握は難しくとも、製錬会社は鉱物をどこから仕入れているのか把握していますので、これがわかれば、メーカーは原材料の出所を遡っていき、最終的にどこの製錬会社からの原料なのかわかれば、紛争と関わりがあるか特定できることになります。対象となる鉱物の製錬業者はおおよそ500社とされます。
紛争鉱物の定義|対象鉱物は3TG
紛争鉱物とは、略して3TGという言い方もなされますが、これはスズ(Tin)、タンタル(Tantalum)、タングステン(Tungsten)、金(Gold)のそれぞれの頭文字をとった略称です。紛争地帯で採掘される鉱物のことを言っているのではなく、これら4種類の鉱物とその派生物の総称です。したがって、コンゴ周辺でなくとも、3TGの4つの金属と派生物をまとめて「紛争鉱物」と呼んでいます。
コバルトは紛争鉱物の対象外
コンゴといえば、世界最大のコバルトの産出国であり、工業分野においては不可欠な元素の一つですが、現在までのところ、コバルトは調査対象外となっています。
紛争鉱物の対象国
コンゴ民主共和国(DRC)と国境を共有する国で、アンゴラ、ブルンジ、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、ルワンダ、南スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビアが対象国となります。これらの国に由来するからといって必ずしもそれが武装勢力の資金源となるわけではありませんが、紛争鉱物の対象国となっているのは、これら10カ国です。ただし、取引相手がこれらの国の企業だからという理由だけで、「材料や資源を仕入れない」「取引しない」というようなことはしないで欲しいとの談話が出されています。
紛争鉱物調査のプロセスは、現状把握と情報開示からはじまりますので、それが高じて取引停止やサプライヤーに使用材料の強要をしたり、サプライヤーに監査を行ったりといったことを行うのは趣旨から外れます。
紛争鉱物の対象国に由来するものと明確に分かった場合で、その金属がスクラップや再生品由来のものでない場合は、デューデリジェンスと呼ばれる、その紛争鉱物の起源から流通や加工・管理に至るまでの詳細調査を行います。これに基づいて最終的に、対象となる米国企業は紛争鉱物報告書を作成することになります。
紛争鉱物の調査がなぜ活発化しているのか
この紛争鉱物の使用に関する調査が活発になっているのは、2010年7月にアメリカである法案が採択されたことが理由です。これによると、アメリカに上場している企業はコンゴ民主共和国(DRC)とその周辺地域から産出される紛争鉱物(スズ、タンタル、タングステン、金)を使っているかどうか開示する義務を負うことになりました。
この法案の名前は、ドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)といわれるもので、金融規制改革法とも呼ばれます。この中に、米証券取引委員会(SEC)に対して、米国上場企業は、コンゴ紛争鉱物を製品に使っているかどうかの報告義務が盛り込まれているわけです。さらに、具体的な報告手続きについても2012年8月に採択されました。
米国は世界最大の消費国でもあり、そのアメリカで上場している製造業が対象となっている為、直接、間接的に納入している企業の数はとても多く、世界各国に存在することになりますが、多くの製品が上流から下流までの長いサプライチェーンによって製品を製造するため、アメリカ企業と直接取引きしておらず、かかわりのない企業にまでこの調査依頼が必要になっているというのが背景にあります。
直接的に影響を受けるのは6000社強といわれていましたが、これら企業に原材料や部品、部材を供給する1次サプライヤーからその2次、3次サプライヤーと遡っていくことになるため、1つの製品を作るのに多くの原材料や部品、資材などが必要なことを考えると、調査対象となる企業数はさらに増えていきますので、結果として、米国上場企業がこの法律に従って報告を行うためには最終的に数十万社を超える企業の調査協力が必要になります。
この制度は、一部誤解されていることもありますが、現時点では、武装勢力から供給源と思われる「紛争鉱物」の使用を禁じたり、不使用の約束をサプライヤーにさせたりするための法律ではありません。あくまで「情報開示」がその目的です。したがって、「わからない」という回答項目を選んでも問題があるわけではありません。むしろ、問題となる鉱山からの紛争鉱物を使っていないとしたほうが、その証明方法が困難ともいえます。もちろん、最終的にはコンゴ紛争にかかわる武装勢力絡みの鉱山や製錬業者から不買の仕組みをつくることで、彼らの資金源を絶つことを目的にしていますので、こうしたステップは段階的に設定されています。
ただ、法律そのものでは報告義務に留めているものの、以下のように各企業のCSRや調達方針に盛り込まれた「紛争鉱物への対応」においては、武装勢力に起因する紛争鉱物を排除する方針が明確にうたわれています。また、自社で製造するものについての原料の出所をトレースできるよう求めていますので、中小製造業でも原料メーカーに対して同様の依頼を行っていく必要があります。
対象国となる10カ国を原産地とする紛争鉱物ということがわかった場合には、デューデリジェンスを実施する義務を負いますが、この段階ではその米国企業は監査を受けることになります。コンゴ紛争との因果関係がよくわからないと結論付けられた場合は、この監査や報告書の提出については2年間の猶予期間が設けられており、小規模な会社であればこれが4年間となります。
この法律が採択されたのが2010年ですが、具体的な報告に関する手続きが採択されたのが2012年ですから、猶予期間を利用して報告を先送りしてきた企業にとっては、デューデリジェンスに基づいた紛争鉱物報告書の作成や監査をこれ以上先延ばしにはできません。
紛争鉱物の使用について方針を出している企業
原材料の「出所」をどこまでトレースするのか、という点は各企業でだいぶ幅がありますので、一概には言えませんが、法律の趣旨としては、調査が困難な原材料を使っている中小企業の部材が市場に供給できなくなるようなことは本意ではないとしています。とはいえ、製錬業者に近い立位置にあるメーカーや米国上場企業にとっては、トレースできない、ではすまないケースもあります。
企業が負担することになるコストについても問題視されており、米国内では訴訟も起きていますが、国際的に武装勢力の資金源となるような鉱物資源を用いることには各方面から批判もあり、今後もトレーサビリティ確保の要求は高まっていくものと考えられます。
先にも述べた通り、この法案による紛争鉱物の調査については、ステップが存在し、米国の上場企業としては、まずは2014年5月31日が締め切りとなる、2013年1月1日〜2013年12月31日までの期間について自分たちが対象となる企業かどうかを報告する義務があります。このためにはその企業のサプライヤーの協力が不可欠な為、一斉に調査依頼がきているわけです。ちなみに、調査の締め切りは毎年5月(前年1年間が対象期間:1月〜12月で会計年度とは無関係)となり、本件は毎年継続的に行われるものとなります。
対象となるかどうか、紛争鉱物を使っているかどうかという調査の次のステップからは、原産国の調査を行い、DRCやその周辺国産のものと判明したり、そうではないと分かった場合には、調査内容を米証券取引委員会に報告するとともに、自社のウェブサイトなどで開示することになります。
さらにその次のステップではデューデリジェンスを実施するという具合に、原産地が特定できるよう内容が深まっていきます。
日本の企業でもすでに紛争鉱物に関する方針を掲載している企業は多く、CSRや調達方針に武装勢力の資金源となる紛争鉱物を用いない、排除する方針を明示しているところも多いです。
ただし、企業のなかには、原材料を購入できる先がスペック面や品質面で限られていることもあり(材料メーカーを変えると特性がうまく出ない、条件に合う材料メーカーが少ない等)、自社の都合だけで仕入先を変えられない場合、調査はできても代替メーカーを探すといった是正措置まではなかなか難しいケースもあります。
紛争鉱物における日本企業の対応方針
以下にコーポレートサイトにおいて紛争鉱物に関する取り扱いについて何らかの方針を発表している企業を紹介します。関連会社が米国に上場しているような場合は、やはり本社で紛争鉱物に関する方針を出す必要があるかと思います。(以下、順不同)
- パナソニック(サプライチェーン:紛争鉱物対応)
- ソニー(紛争鉱物とソニーの方針)
- ニコン(「紛争鉱物」問題への対応)
- オリンパス(「紛争鉱物問題」への基本的な考え方)
- 東芝(紛争鉱物の不使用について)
- 任天堂(生産パートナーと進める紛争鉱物への取り組み)
- キヤノン(紛争鉱物に対するキヤノングループの基本姿勢)
- コマツ(「紛争鉱物」に関する取り組み)
- アドバンテスト(調達方針)
- トヨタ【紛争鉱物(コンフリクト・ミネラル)問題への取り組み】
- ホンダ(人権・環境への配慮、紛争鉱物に対する取り組み)
- 日産【コンフリクト・ミネラル(紛争鉱物)への取り組み】
- マツダ(CSR目標)
- 千住金属工業【コンフリクトミネラル(コンフリクトメタル)の排除 】
- 沖電気(OKIグループ資材調達方針)
- 富士通(調達方針)
- 日立(紛争鉱物問題への対応)
- 三菱重工(紛争鉱物に関する基本方針)
- 三菱電機(責任ある鉱物調達への取組み)
- オムロン(紛争鉱物問題への対応)
- 京セラ(紛争鉱物への対応)
- 村田製作所(CSR憲章)
- 堀場製作所(紛争鉱物への対応)
- 島津製作所(紛争鉱物への対応)
紛争鉱物の対象品、対象製品|3TGが使われているもの全て
紛争鉱物として定義されているスズ、タンタル、タングステン、金ですが、これを鉱石のまま納入され何らかの加工をするという企業は限られているものの、実際に製品レベルで見ていくと、工業製品の中でこれらとは全く無関係なものは逆に少ないとすら言えます。
スズ(錫)が使われている製品や用途
スズであれば、メッキや塗料をはじめ、食品やエアゾールの缶にも使われ、ハンダ材料や、集積回路にも使われます。iphoneなどのスマートフォン、携帯機器などタッチパネルに代表される製品の表面には、酸化インジウムスズと呼ばれる透明導電膜が使われていますが、これにもスズが含有します。他にもブリキ、青銅(ブロンズ)、フロートガラス、駆除剤、防腐剤、ベアリング、合金材料全般など幅広い用途があります。
タンタルが使われている製品や用途
タンタルであれば、Ta2O5の形でカメラをはじめとする光学機器や通信機器の薄膜として使われたり、コンデンサーの材料としても使われます。タンタルはコンゴとその周辺地域からの供給が多い鉱物であり、この紛争鉱物の調査については特に注意を要するとされる資源です。
タングステンが使われている製品や用途
タングステンはフィラメントや工具、合金材料、固体潤滑剤、真空蒸着装置内でのハース・るつぼ、徹甲弾など産業用・軍事用などで幅広い使い道があります。超硬にもタングステンは含有します。
金が使われている製品や用途
宝飾品、装飾類や金貨等をイメージする方もいるかもしれませんが、工業用で金といえば、着色はもちろん、集積回路、触媒、薄膜、医薬品、合金材料などが用途としてあります。
紛争鉱物調査への回答方法
自社での回答表を記入する前には、自社へ資材や原材料、部品を納入している一次サプライヤーへ同様の調査依頼をいっせいにする必要があります。つまり、この調査は「仕入先への調査依頼ありき」のものですので、購買や資材の購入を扱う部署から、依頼を行う必要が出てきます。
- まずは、自社製品を製造するのに必要な資材・原材料・部材・部品を納入しているメーカーへ調査依頼する
- 回答を集計し、製品レベルで申告するのか、部門レベルか、会社レベルで申告するのか決める
- 憶測や推測で回答せず、わからない場合はわからないと記入する
- わからないからといって罰則やペナルティがあるわけではないが、顧客の調達方針をよく確認し、どのような形で協力ができるのか社内で一定の結論を出しておくべき
回答はEICC/GeSIが作成した紛争鉱物報告テンプレートを使って行うことが推奨されています。Excelファイルで配布されていますが、表示言語は日本語、中国語、韓国語、フランス語、ポルトガル語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語から選択することができます。
紛争鉱物報告テンプレート(excelファイル)にはいくつかタブがありますが、ほとんどの企業にとってはDeclarationのタブのみを記入することになります。スズ、タンタル、タングステン、金を含むものを原料に用いており、これらの製錬会社が分かっている場合は、隣のタブにあるSmelter Listにも記入することになります。
入力が必須となるDeclarationの部分は、アンケート形式の記入様式になっており、大きく二つのパートに分かれています。質問は次の通りです。
紛争鉱物報告テンプレートの質問項目(利用状況や使っている鉱物の起源、オリジンについて)
タンタル、スズ、金、タングステンが製造に必要かどうか(製造契約を結んでいるものも対象)。そもそも生産に使っているか(直接的に自社でこうした金属を使っていなくとも、これらが添加されている生産資材も対象に含むため要注意)。 |
タンタル、スズ、金、タングステンがコンゴ(DRC)やその隣接国を原産地としているかどうか |
これら4金属をリサイクル業者やスクラップ業者から調達しているか(リサイクルやスクラップで調達している場合は、そもそもコンゴの武装勢力の資金源とはならない) |
全サプライヤーから、紛争鉱物報告テンプレートを受け取っているかどうか |
自社もしくはサプライヤーが使用しているタンタル、スズ、金、タングステンについて、供給元の製錬業者をすべて特定しているか |
利用しているタンタル、スズ、金、タングステンの製錬業者が、コンフリクトフリー製錬業者プログラム(CFS)に適合しており、適合製錬業者リストに記載されているか |
紛争鉱物に関する会社方針や制度についての質問項目
DRCコンフリクトフリー調達に関する方針があるか |
その方針が自社のホームページで閲覧できるか |
一次サプライヤーにDRCコンフリクトフリーであることを要請しているか |
一次サプライヤーに対して、コンフリクトフリープログラム適合製錬業者のリストを使用し、コンフリクトフリー製錬業者規程への準拠が検証された製錬業者から調達することを求めているか |
調達元の製錬業者名をあきらかにするようにサプライヤーへ要請しているか |
サプライヤーから入手したデューデリジェンス情報を検証しているか |
検証プロセスに是正措置管理が含まれるか |
米国証券取引委員会(SEC)の紛争鉱物開示規則の対象企業か。 |
- EICC/GeSIによるコンフリクトフリー製錬業者プログラム
- ページ末尾のYES I agreeのチェックボックスにチェックを入れ、Submit Formをクリックしないと次ページに進めません。デューデリジェンスのツール、集計ツール、製錬業者のリスト、紛争鉱物報告のテンプレート等の入手が可能です。自社で入力したり、サプライヤーへ入力を依頼するための最新の報告用テンプレートは、Due Diligence Tools内にあるConflict Minerals Reporting Template and Dashboardから、Conflict Minerals Reporting Templateの項目に掲載されています。
- ※EICCはElectronic Industry Citizenship Coalitionの略で電子業界を対象に行動規範の標準化等(グローバルサプライチェーンの構築に伴う)を行う団体。2004年発足。
- ※GeSI(Global e-Sustainability Initiative)は情報技術分野における社会・経済の持続可能性等を推進する為に2001年に設立された団体。
紛争鉱物報告テンプレートの記入箇所
>「紛争鉱物に関する調査対応の方法|コンフリクトミネラルとは」の先頭へ
- 3TGとは何か
- 紛争鉱物にアルミは含まれるか
- 紛争鉱物におけるOECDのガイドライン
- 紛争鉱物はOEMにも関係あるか
- 紛争鉱物と金型は関連があるか
- 紛争鉱物の産出国
- 紛争鉱物にステンレスは該当するか
- スクラップ品も紛争鉱物にあてはまるか
- 紛争鉱物の調査対象
- 紛争鉱物の調査期間
- 紛争鉱物に塗料も該当するか
- めっきも紛争鉱物に関係があるか
- タンタル(元素記号 Ta)の用途、特性、物性、密度、比重、融点、沸点など
- タングステン(元素記号 W)の用途、特性、物性、密度、比重、融点、沸点など
- スズ、錫(元素記号 Sn)の用途、特性、物性、密度、比重、融点、沸点など
- 金(元素記号 Au)の用途、特性、物性、密度、比重、融点、沸点など
- めっきの種類と特徴
- I.T.O(酸化インジウムスズ)の特性
- Ta2O5(五酸化タンタル)の特性
- WO3(酸化タングステン)の特性
- WC(炭化タングステン)のコーティング
- 高速度工具鋼鋼材(SKH材、ハイス鋼)の用途、機械的性質、成分の一覧