Ta2O5(五酸化タンタル)の特性
Ta2O5(五酸化タンタル)は可視域で高屈折率の薄膜材料の一つで、高温に強く、膜質が安定しています。ND:YAGレーザー等の耐性に優れ、膜質の安定性から層数が特に多い多層膜にも使われます。高屈折率材の代表格であるTiO2は温度により膜質が変化することがあり、超多層膜には不向きとする意見もあります。
可視光域用途の高屈折率材料としては、Ta2O5のほか、Nb2O5、TiO2等があげられます。Ta2O5はIADなどイオンアシストを用いた成膜の際、膜質が結晶質になりにくいため、TiO2の代わりによく用いられます。分光特性のシフトを抑える、いわゆるノンシフト膜、シフトレスの膜を作製するためには、膜質は多結晶の柱状構造ではなく、非晶質(アモルファス)のほうが望ましく(膜の隙間に水分が入りにくいため)、Ta2O5は、他の可視光域の高屈折率材料の中では最もイオンアシスト蒸着での膜質安定性に優れた材料の一つと言われます。
同じく可視光域での高屈折率材料の候補であるNb2O5(五酸化ニオブ)は、屈折率はTa2O5も高く、価格も若干安いため、有望な候補の一つですが、イオンアシスト蒸着では膜質が若干結晶質になりやすいという欠点もあります。
DWDMをはじめとする通信分野用途など多層膜や、ブルーレイ用途でTiO2よりも短波長側の近紫外域での透過率が必要な場合、ND:YAGレーザー等の耐性や膜質の安定が求められる場合、経時変化による光学特性のシフトを特に気にする場合等、イオンアシスト成膜とセットで検討される材料です。
なお、成膜手法としてはイオンアシスト蒸着のほか、ターゲット材を用いたスパッタリングもよく使われます。
屈折率 | 2.16(550 nm近辺) |
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使用波長域 | 0.3 〜 10μm |
蒸発方法 | EB(電子ビーム) |
蒸発源材料 | C,T,Ta |
蒸発タイプ | |
膜質 | 非晶質、硬く耐久性良好、耐熱性良好(蒸着条件によっては結晶質になる) |
応力 | 引っ張り(IADにより圧縮に転じることもある) |
主な用途 | 誘電体多層膜 |
理論密度 | 8.73g/cm3 |
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融点 | 1468℃ |
沸点 | - |
性質 | 水溶性:不溶 耐薬品性(酸、アルカリ):アルカリに可溶 不溶:水、アルコール 可溶:フッ化水素酸 ※1 |
結晶構造 | Ta2O5(L)斜方、多数の多形が存在する ※2 |
抵抗率ρ/10^-8Ωm | - |
誘電率、比誘電率εγ | - |
熱膨張係数 | - |
熱伝導率(cal/cm/sec/℃) | - |
比熱(cal/℃/mole) | - |
外観 | 白色または灰白色 |
CAS-NO | 1314-61-0 |
輸送情報 | 輸出貿易管理令(リスト規制非該当) |
参照文献
- ※1:[日本化学会編,“化学便覧 基礎編 改訂5版”,丸善(2005),p.T-334]
- ※2:[日本化学会編,“化学便覧 基礎編 改訂5版”,丸善(2005),p.U-838]
専門誌等で発表されているTa2O5の薄膜に関する研究論文
掲載誌 | Journal of Heat Transfer JANUARY 2007, Vol. 129 pp.27- |
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タイトル | "Change in Radiative Optical Properties of Ta2O5 Thin Films due to High-Temperature Heat Treatment" |
著者 | Ramesh Chandrasekharan, Shaurya Prakash, Mark A. Shannon, R. I. Masel |
概要 | Ta2O5膜を900℃で加熱し、加熱前との赤外域での反射率を比較検討し、考察した |
掲載誌 | Thin Solid Films, Volume 516, Issue 14, 30 May 2008, Pages 4587-4592 |
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タイトル | "Overview about the optical properties and mechanical stress of different dielectric thin films produced by reactive -low-voltage-ion-plating" |
著者 | A. Hallbauer, D. Huber, G. N. Strauss, S. Schlichtherle, A. Kunz, H. K. Pulker |
概要 | 反応性低電圧イオンプレーティング(RLVIP)によりTa2O5, HfO2, Nb2O5を無加熱基板に200nm(物理膜厚)成膜し、蒸着条件の違いによって膜の光学特性ならびに機械的特性がどのように変化するかを考察した |
掲載誌 | Japanese Journal of Applied Physics Vol. 46, No. 1, 2007, pp.L16-L17 |
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タイトル | "Laser-Induced Damage and Environmental Stability of Thin Films Deposited by Ion-Assisted Electron-Beam Deposition" |
著者 | Tomohiko ISHIDA and Kunio YOSHIDA |
概要 |
掲載誌 | Japanese Journal of Applied Physics Vol. 44, No. 1A, 2005, pp. 181-186 |
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タイトル | "Influences of Residual Argon Gas and Thermal Annealing on Ta2O5 Thin Films" |
著者 | Wen-Jen LIU, Chia-Hung CHIEN |
概要 | 石英ガラス上にイオンアシスト蒸着を用いて成膜したTa2O5膜について、残留アルゴンガス、アニール処理が光学特性、機械的特性にどのような影響を及ぼすか考察した |
掲載誌 | 三菱電線工業時報 第102号 2005年10月 |
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タイトル | 『レーザー耐性および環境安定性に優れた光学薄膜の開発』 "Development of the Optical Thin Film having Highly Damage Resistances and Environmental Stabilities" |
著者 | 石田智彦、広場和典、山岸敏志、金本歩、吉田國雄 |
概要 | - |
掲載誌 | APPLIED OPTICS Vol. 32, No. 28 / 1 Oct 1993 pp.5583-5593 |
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タイトル | "Optical coatings deposited by reactive ion plating" |
著者 | Allan J. Waldorf, J. A. Dobrowolski, Brian T. Sullivan, and L. M. Plante |
概要 | イオンプレーティング法による蒸着で成膜されたHfO2、Ta2O5、SiO2の単層膜について、透過率、反射率、レーザー損傷閾値(1064nm, 248nm)、経時変化 |
掲載誌 | OPTICA ACTA, 1986, VOL.33, NO. 7, 919-924 |
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タイトル | "Absorption-influenced laser damage resistance of Ta2O5 coatings" |
著者 | R. WOLF and G. ZSCHERPE, W. WELSCH, V. GOEPNER and D. SCHAFER |
概要 | Ta2O5のλ/4の単層膜について、530nmと1060nmでのレーザー誘起損傷閾値、吸収を調べ、それらの相関関係を考察した |
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