Al2O3(酸化アルミニウム)の特性
Al2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)は、真空紫外域から赤外まで幅広い透過波長域を持つ中間屈折材料として広く用いられている薄膜材料です。密着性のよさ、膜の硬さ、耐磨耗性、コストパフォーマンス等から多くの保護膜、ARコート、HRコート等として使われます。またAl2O3は紫外域での吸収端を 200nm以下に持つため、短波長レーザーの反射膜に使われることもあります。Al2O3は融点が高いため、電子ビーム(EB)での蒸着が一般的で、アモルファスな膜を形成します。また、Al2O3膜は水蒸気に対して優れた遮蔽特性を示すことも知られています。
薄膜に使われるAl2O3には、大きく分けて焼結体のものとサファイア等の結晶顆粒(もしくは結晶ペレット)があり、求める膜の純度や生産方法によって使い分けがなされています。一般に、サファイア材料といわれる結晶系のものは純度が4Nから5N以上(99.99%から99.999%以上)の高純度材料のものと、3N程度(もしくは2N程度)の廉価品とがありますが、焼結体の場合は純度が高くとも4N程度が限界となるため、高純度の場合は結晶が特に好まれます。
アルミナに含まれる不純物も膜特性には当然影響してきますので、これらを極力取り除いた材料が望ましいといえます。またバルクではなく薄膜として使う場合は、成膜中に材料由来の出ガスが発生すると膜の品質に影響し、N値などが安定しませんので、こうした出ガス(アウトガス)は許容できるレベルまで落とす必要があります。ビーム照射時の輻射熱に起因する出ガスもあるとされるため、「溶けやすさ」も薄膜の品質向上のファクターとする考え方もあります。光学膜として使う場合は、目的とする波長領域で如何に吸収をなくし、透過率を上げるかという点がポイントとなります。
なお、下記に記載されたデータは参考値です。成膜手法や成膜条件、装置の違いなどの使用環境によっても異なります。特に薄膜と記載のないものはバルクの特性になります。
屈折率 | 1.63(550 nm近辺) |
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使用波長域 | 0.2 〜 7μm |
蒸発方法 | EB(電子ビーム) |
蒸発源材料 | タングステン |
蒸発タイプ | 溶融、蒸発型 |
膜質 | 非晶質、硬く耐久性がある |
応力 | 引っ張り |
主な用途 | 誘電膜、絶縁膜、多層膜、保護膜、ガスバリア膜 |
理論密度 | 4.0g/cm3 |
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融点 | 2015℃ |
沸点 | 2015℃ |
性質 | 水溶性:不溶 耐薬品性(酸、アルカリ):難溶 |
結晶構造 | α:三方晶系、γ:立方晶系 1000℃>でαに転移,菱面(※1) |
抵抗率ρ/10^-8Ωm | 1 x 10^22 温度(θ/℃)14(※3) |
誘電率、比誘電率εγ | ε11=ε22 9.34 温度/℃:25 周波数/Hz:10^2〜10^10 ε33 11.54(※2) |
熱膨張係数 | 5.9 x 10^-6(※4) |
熱伝導率(cal/cm/sec/℃) | 10^-5(※4) |
比熱(cal/℃/mole) | 22.96 127T(℃) |
外観 | 白色固形、白色透明(結晶、サファイア) |
CAS-NO | 1344-28-1 |
輸送情報 | 輸出貿易管理令(リスト規制非該当) |
参照文献
- ※1:[日本化学会編,“化学便覧 基礎編 改訂5版”,丸善(2005),p.T-158]
- ※2:[日本化学会編,“化学便覧 基礎編 改訂5版”,丸善(2005),p.U-624]
- ※3:前掲 p.U-612
- ※4:生産現場における光学薄膜の設計・作製・評価技術 監修/小倉繁太郎 技術情報協会 2001年1月22日 第7章第11節『紫外線波長用フィルター』p266-267 小倉繁太郎
専門誌等で発表されているAl2O3の薄膜に関する研究論文
掲載誌 | Thin Solid Films vol.410 (2002) p.86-93 |
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タイトル | "A comparative study of the UV optical and structural properties of SiO2, Al2O3, and HfO2 single layers deposited by reactive evaporation, ion-assisted deposition and plasma ion-assisted deposition" |
著者 | R.Thielsch, A.Gatto, J.Heber, N.Kaiser |
概要 | 反応性蒸着、イオンアシスト蒸着(IAD)、プラズマイオンアシスト蒸着のそれぞれの蒸着手法で成膜したSiO2,Al2O3,HfO2の単層膜の光学的特性、構造的特性(膜の緻密度、表面粗さ、結晶性)、表面形態、HfO2のレーザー損傷閾値(LIDT、248nmのKrFエキシマレーザー照射)に影響を及ぼす条件についての研究論文 |
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