圧力容器用鋼板の規格|SPV鋼材の種類と特徴、比重、成分から引張強さ等の機械的性質まで
圧力容器用鋼板であるSPV材はSPV235、SPV315、SPV355、SPV410、SPV450、SPV490の6種類の材料記号がJIS規格にて規定されていますが、この鋼板そのものはシリコン−マンガン系鋼板の一種です。炭素量はいずれも0.18%以下もしくは0.20%以下に抑えられており、成分や引張強さ、降伏点、曲げ性、シャルピー衝撃値、伸び、溶接性を見るための炭素当量や溶接割れ感受性組成といった圧力容器用を想定した各種のパラメータが規定値に盛り込まれています。
圧力容器は、ボイラーや各種受槽・貯槽、反応容器やアキュムレータ、熱交換器など産業用途・工業用途では欠かすことのできない構成要素の一つですが、使われる環境は多岐にわたり、極低温から高温、真空から1000気圧を超えるような高圧環境まで多様な用途があります。主として、耐熱温度、圧力はどこまで耐えられるか、どのような液体・気体と接触するかといった点によって適合する圧力容器用の素材が変わってきます。例えば、ヘリウム等、沸点が−268℃にもなる液化ガスの場合、こうした極低温に対応する鋼材を選択することになります。高温域では600℃以上で用いる容器もあります。
こうした事情から、圧力容器用として設計されている材料は、圧力や接触することになる物質の腐食に耐えうることが求められ、特に容器製造の際に不可欠となる「溶接」箇所の強度についても重要視されることとなります。
この溶接性については、具体的には材料の成分から計算される「炭素当量」や「溶接割れ感受性組成」についての規定値が設けられています(熱処理ごとに)。これにより、溶接箇所の割れや破損の品質をコントロールするという発想です。
また、衝撃に対する強度を見るうえで重要な指標となるシャルピー吸収エネルギーについても材料ごとにパラメータが設けてあります。
この他、機械的性質については降伏点、耐力、引張強度、伸び、曲げ性について規定されています。
SPV材の熱処理|熱加工制御(TMCP)とは
鋼板や鋼材は、持って生まれた成分だけでなく、その後の熱処理によって性質を大きく変えますが、SPV材の場合、熱加工制御と呼ばれる厚板の製造プロセスが適用されるものがあります。
これは制御圧延と制御冷却を組み合わせた厚板の製造方式の一つで、490MPa以上の引張強度を持つハイテン材(高張力鋼)を製造した場合、炭素量を減らすことができる点、合金元素の添加量も大きく減らすことができる点に特徴があります。
この熱加工制御は、TMCP(Thermo-Mechanical Control Process)とも呼ばれ、前述の炭素量の低減や合金元素量の低減によって、低温靭性と溶接性が大きく向上する製造技法の一種です。
なお、引張強度の強い鋼板、いわゆる高張力鋼板(490MPa以上)の場合は、溶接時の低温割れを防ぐ為、予熱を行うことが一般的です。
SPV鋼材の種類 | 熱処理 |
---|---|
SPV235 | 圧延したままの状態。必要に応じて焼ならしを行ってもよいことになっています。 |
SPV315、SPV355 | これら二種も原則的には圧延したまま。但し、必要に応じて焼ならしを行ってもよい規定があります。受渡し当事者間の取り決めがあれば、熱加工制御や焼入焼戻しを行ってもよいことになっています。 |
SPV410 | 熱加工制御を行う鋼板です。ただし熱加工制御で製造できる最大の板厚は100mmまでとなります。別途受渡し当事者間の取り決めによっては熱加工制御のかわりに焼ならしや焼入れ焼戻しを行ってもよいことになっています。 |
SPV450、SPV490 | 熱処理としては焼入焼戻しを行うグレードです。当事者間の取り決めによっては焼ならしを行うこともできます。 |
熱処理を行ったことを示す固有の記号についても下表の通り規定があり、例えばSPV355TMCとあった場合は、熱加工制御を行ったSPV355鋼板であることを示しています。
熱処理記号 | 熱処理の内容 |
---|---|
TMC | 鋼板に熱加工制御を行う場合 |
N | 鋼板に焼きならし加工する場合(製品のやり取りを行う当事者間で取り決める) |
Q | 鋼板に焼入れ焼戻しを行う場合 |
TN | 試験片だけに焼ならしを行う場合 |
SR | 試験片に溶接後熱処理に相当する熱処理を行う場合 |
TQ | 試験片だけに焼入れ焼戻しを行う場合 |
圧力容器用鋼板|SPV材の厚さの許容差
寸法・サイズについては、厚さと幅に応じて許容公差が変わります。マイナス側についての許容公差はJIS規格上、0.25mmに設定されていますが、これを取り決めによってゼロにすることも可能です。この場合は、この値に応じてプラス側の公差についても調整することになります。
厚さの範囲 | 幅 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
1600ミリ未満 | 1600ミリ以上2000ミリ未満 | 2000ミリ以上2500ミリ未満 | 2500ミリ以上3150ミリ未満 | 3150ミリ以上4000ミリ未満 | 4000ミリ以上5000ミリ未満 | |
6.00ミリ以上6.30ミリ未満 | +0.75 | +0.95 | +0.95 | +1.25 | +1.25 | − |
6.30ミリ以上10.0ミリ未満 | +0.85 | +1.05 | +1.05 | +1.35 | +1.35 | +1.55 |
10.0ミリ以上16.0ミリ未満 | +0.85 | +1.05 | +1.05 | +1.35 | +1.35 | +1.75 |
16.0ミリ以上25.0ミリ未満 | +1.05 | +1.25 | +1.25 | +1.65 | +1.65 | +1.95 |
25.0ミリ以上40.0ミリ未満 | +1.15 | +1.35 | +1.35 | +1.75 | +1.75 | +2.15 |
40.0ミリ以上63.0ミリ未満 | +1.35 | +1.65 | +1.65 | +1.95 | +1.95 | +2.35 |
63.0ミリ以上100ミリ未満 | +1.55 | +1.95 | +1.95 | +2.35 | +2.35 | +2.75 |
100ミリ以上160ミリ未満 | +2.35 | +2.75 | +2.75 | +3.15 | +3.15 | +3.55 |
160ミリ以上 | +2.95 | +3.35 | +3.35 | +3.55 | +3.55 | +3.95 |
「JIS G 3115 圧力容器用鋼板」に規定のある材料記号
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