硬鋼線、硬鋼線材の材質、成分、比重、降伏点などの規格と特徴
硬鋼とは、鋼を分類する際に硬さを区分けの基準としたものですが、硬鋼線の素材となる硬鋼線材は炭素量や成分の違いによって、21種類あります。これらは硬鋼線材と銘打ってはいますが、硬鋼線以外、例えば他の鋼材の規格とは異なり、炭素含有量の範囲が厳密に定められています。最も炭素量の低いものでも、0.24%となり、最高は0.86%となります。
硬鋼線材の特徴
硬鋼線材は、硬鋼線だけに使われるわけではなく、オイルテンパー線やPC硬鋼線、亜鉛メッキ鋼より線、ワイヤーロープなどの線製品の素材としても使われます。炭素量含有量をはじめ、構成成分が段階的に異なる材料が21種類あるため、製造目的、求められる仕様・強度に応じて素材から検討を行っていくことになります。
一般的な加工であれば、ほとんどが硬鋼線で対応可能であり、通常のバネに使われる素材でもあります。硬鋼線材は、炭素の含有量により呼称が変わり、一般的に40カーボンといわれた場合は、0.40%(前後)の炭素量を含有する線材を意味します。80カーボンといった場合は、0.80%(前後)の炭素量を含有する硬鋼線材を用いたものであることを意味します。
硬鋼線材の末尾にAとBがついた二種がありますが、これらはマンガン含有量の違いであり、B種の方がマンガンの量が多くなります。マンガンは引張強度や靭性に影響する元素である為、B種のほうが若干ですが、強度は高くなることが予想されます。
硬鋼線材のサイズ
標準となる線材の径サイズ |
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5.5 |
6 |
6.4 |
7 |
8 |
9 |
9.5 |
10 |
11 |
12 |
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19 |
硬鋼線の特徴
硬鋼線とは、鉄鋼材料の線(ワイヤー)の規格材料の一つで、硬鋼線材として規定されている材料を熱処理したのち、冷間加工によって線に引き伸ばした(伸線)ものとなります。硬鋼線材であるSWRH(30〜80カーボン)を熱処理(パティンチング)した後、冷間で伸線したものとも言えます。
ピアノ線と比較されることもある硬鋼線ですが、強度面や材料規格の厳しさにおいてはピアノ線に劣るものの、椅子やベッドスプリングなどの家庭製品から、家電製品、OA製品のメカニカルスプリング、トーションスプリング、安全ピンのばね、スイッチ類のばね、はかりのばね、自転車のサドル、スプリングシャッタの巻上げばね、玩具用ばね、押しばね、引きばね、ねじりばね、高圧ゴムホース補強線、通信線・送電線用補強線、建築用途としてシャッタースプリング、自動車のシートスプリングなど幅広く産業界で使われている鋼の線のひとつです。
硬鋼線の線径、寸法、サイズ
線材としての標準径は、16種類が規定されており、下表の通りです。なお、材料として、許容公差は±0.40mm、偏径差は0.64mm以下となります。偏径差は最大値と最小値の差のことです。
線の直径(単位:mm) |
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0.08 |
0.09 |
0.10 |
0.12 |
0.14 |
0.16 |
0.18 |
0.20 |
0.23 |
0.26 |
0.29 |
0.32 |
0.35 |
0.40 |
0.45 |
0.50 |
0.55 |
0.60 |
0.65 |
0.70 |
0.80 |
0.90 |
1.00 |
1.20 |
1.40 |
1.60 |
1.80 |
2.00 |
2.30 |
2.60 |
2.90 |
3.20 |
3.50 |
4.00 |
4.50 |
5.00 |
5.50 |
6.00 |
6.50 |
7.00 |
8.00 |
9.00 |
10.0 |
11.0 |
12.0 |
13.0 |
硬鋼線の種類、用途の使い分け
硬鋼線については、規格上はSW-A、SW-B、SW-Cの三種類となりますが、炭素の含有量の違いによっても呼び分けられることがあります。これら三種の違いと、線径の違いによって引張強度も変わります。SW-BとSW-Cの二種は、主として静荷重用のバネ用を想定したものです。
線は細いものほど、強度が強くなり、硬鋼線で最も強いものでは、線の直径0.08mmのSW-Cで、2790から3140MPaの引張強度を持ちます。通常の部品用等に使われている鋼材から比べると、破格の強さですが、あくまで静荷重用であり、動荷重用にはピアノ線が用いられます。
ちなみに、バネでいう静荷重とは、バネを用いた際にかかる荷重の変化がないものや、繰り返し荷重を変化させたとしても1000回以下のものについて言います。要は、バネを引っ張ったり、押したりしている力が常に一定になっている場合のことです。
よりバネに負担がかかるのは動荷重であり、これは負荷が一定の力ではなく、変化していく為、動荷重用の鋼線であるピアノ線等の利用を検討することになります。
硬鋼線の製造工程
ピアノ線や硬鋼線の一般的な製造工程は、線材の状態から、脱スケール、中間伸線、パテンチング処理、前処理、伸線、検査、出荷の流れで進みます。弁ばね用のピアノ線V種については、パテンチングの前工程でシェービングが入ります。
パテンチング処理は、鋼材を「線」として加工しやすくするため、熱処理により粘くて伸びの大きい状態にすることです。伸線加工では、材料に大きな力がかかることにより発生する加工硬化によって、線そのものが硬化してしまうことも珍しくない為、一旦硬化してしまったものを再度パテンチングにより軟化させ、伸ばしていくこともあります。
細いほど強くなる|鋼線に固有の減面率
伸線加工を行う前の線の断面積と、伸線加工後の断面積の差から計算される値が減面率です。
伸線、ワイヤー素材は、減面率が高いほど引張強さが高くなり、伸びの値が低くなっていく特徴を持ちます。表面の平滑性も減面率が高いものほど高くなっていきます。
弁ばねをはじめとする特に信頼性の高い線が必要なものでは、表面の細かい傷は破断につながるため、研削や研磨により脱炭とともに除去されます。
一般に、鋼線の絞りは70%前くらいまでの減面率であれば上昇傾向にありますが、これを超えると徐々に低下していきます。
鋼線の強度を見るための「ねじり」
ねじり回数についても、30%程度の減面率で伸線にしたものから70%前後の減面率までは上昇していきますが、それ以降は横ばいとなります。
ピアノ線と硬鋼線を同じ線径で比較した場合、線径の公差、ねじり回数、引張強度のいずれもピアノ線のほうが厳しい基準となっています。機械的強度は見た目の上ではあまり大きな差異が出ていませんが、ピアノ線の規格には傷深さについての規定と、脱炭層深さについての規定といった表面状態をみるための規定があり、より品質の高い線となります。
線材の上でも、ピアノ線材のほうが不純物の上限が厳しくなっています。線材の段階から、両者は異なる品質基準が適用されています。
また材料が「線」の場合に固有の試験として、捻回試験(ねん回試験)が実施されることがあります。引張強さが線の強さを示すのに対し、これは線のもつ変形性能を見るためのものとなります。硬鋼線については、線をねじって破断するまでの回数を規格で定めており、線径により下表の通りとなります。
破断面自体も、著しい傷や割れなどがないことが条件となります。ねじった際に、縦割れ・局部ねじれ、縦割れなどが出た場合もNGとなります。
線径 | ねじり回数 |
---|---|
線径0.70mm以上2.00mm以下 | 20回以上 |
線径2.00mmを超え、3.50mm以下 | 15回以上 |
線径3.50mmを超え、6.00mm以下 | 10回以上 |
硬鋼線の線径、寸法の許容差、公差
硬鋼線の線径には、許容公差が線径ごとに設けられています。線径の断面における最大値と最小値の差である「偏径差」についても規定があります。
線径 | 許容差、寸法公差 | 偏径差 |
---|---|---|
0.08以上0.10以下 | ±0.006 | 0.006以下 |
0.10を超え、0.20以下 | ±0.008 | 0.008以下 |
0.20を超え0.50以下 | ±0.015 | 0.015以下 |
0.50を超え1.00以下 | ±0.020 | 0.020以下 |
1.00を超え2.00以下 | ±0.030 | 0.030以下 |
2.00を超え3.20以下 | ±0.040 | 0.040以下 |
3.20を超え5.50以下 | ±0.050 | 0.050以下 |
5.50を超え8.50以下 | ±0.060 | 0.060以下 |
8.50を超え13.0以下 | ±0.070 | 0.070以下 |
ばね等に使われる鋼線の種類と規格
強靭な性質を持つ鋼の線は、主にバネ用のものが規格化されています。硬鋼線もその一種類になりますが、以下のように、冷間・熱間の違い、炭素鋼線と合金鋼線の違いから用途に応じていくつかの鋼線があります。
ばね用鋼線の種類 | 冷間加工線 | 炭素鋼線 | ピアノ線 | SWP-A、SWP-B |
---|---|---|---|---|
弁ばね用ピアノ線 | SWP-V | |||
硬鋼線 | SW-A、SW-B、SW-C | |||
合金鋼線 | ばね用ステンレス鋼線 | SUS302-WPA、SUS302-WPB、SUS304-WPA、SUS304-WPB、SUS304N1-WPA、SUS304-WPBS、SUS316-WPA、SUS304N1-WPB、SUS631J1-WPC、SUS304-WPDS | ||
熱処理線 | 炭素鋼線 | ばね用炭素鋼オイルテンパー線 | SWO-A、SWO-B | |
弁ばね用炭素鋼オイルテンパー線 | SWO-V | |||
合金鋼線 | 弁ばね用合金鋼オイルテンパー線 | SWOCV-V(弁ばね用クロムバナジウム鋼オイルテンパー線)、SWOSC-V(弁ばね用シリコンクロム鋼オイルテンパー線) | ||
ばね用合金鋼オイルテンパー線 | SWOSC-B(ばね用シリコンクロム鋼オイルテンパー線)、SWOSM-A(ばね用シリコンマンガン鋼オイルテンパー線 A種)、SWOSM-B(ばね用シリコンマンガン鋼オイルテンパー線 B種)、SWOSM-C(ばね用シリコンマンガン鋼オイルテンパー線 C種) | |||
ばね鋼 | SUP6、SUP7、SUP9、SUP9A、SUP10、SUP11A、SUP12、SUP13 |
「JIS G 3521 硬鋼線」に規定のある材料記号
「JIS G 3506 硬鋼線材(2004年改訂)」に規定のある材料記号
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