天然砥石の選び方について

2010年10月20日更新

天然砥石の世界では、「自分にあったものを探す」という言い方がよくなされます。工業用であれば、研磨する対象(被削材)、使用機械、研削条件、狙っている面粗度を見ながら適合するものを選んでいきますが、手で研ぐための天然砥石を選ぶのが難しいのは、使い手の感性や研ぎの技術と刃物との相性を見る必要があるのはもちろん、使用する砥石が同じ産地のものでも品質が全く同じというわけではない、という点があるからです。

工業用として作られた砥石も、完全に同じかといわれれば焼き物である以上難しい面もありますが、ともかくある対象を一定の粗さに仕上げるのに十分な品質はきちんと管理されていますので、いつ購入しても同じメーカーの同じ製法のものであれば突然切れないといったことにはなりません。工業製品であれば品質が同じであることはある意味必須の条件です。

工業用の砥石を構成する三要素は、「砥粒」「ボンド(結合剤)」「気孔」ですが、これは実のところ天然砥石にも当てはまります。どのような岩石であっても、微細な隙間があり、石の内部に空孔(ポア)が全くないということはほとんどありません。これが気孔として作用します。すなわち、チップポケットとして切り屑・切り粉の排出や、自生作用(自生発刃)の促進です。石は単一の物質からできていることは稀で、それぞれの成分が砥粒とボンドの役割を担います。

表面の粗さに最も大きく作用するのは対象を削る刃となる砥粒の大きさであり、これを粒度といいますが、天然砥石ではこの大きさをコントロールすることができません。人造砥石は、中に入れる砥粒はあらかじめフルイ等を使って分級しておきますので、削り取るための刃の大きさが概ね均質といえます。天然砥石の場合は、目利きによって選別されますが、天然のものですので厳密に粒度という概念があるわけではなく、感覚と感性の世界になってきます。

天然砥石は同じ産地のものであっても数億年の歳月を経て形作られた天然の岩石に、一つとして同じものはなく、微妙な違いがこの砥石の個性を生み出しています。

上記のような事情から、天然砥石は特に使ってみないとわからないという要素が強く、購入された場合は産地やどういう出自の天然砥石なのか記録をとっておくことをおすすめいたします。刃物にしても、ステンレス鋼だけでなく、炭素鋼や工具鋼もあり、それぞれの鋼材も全く同じとは限りませんので(「鉄鋼材料の種類」 | 「鉄鋼材料の特性」参照)、こうした点も考慮する必要があります。

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