可鍛鋳鉄の種類、用途、特性、記号|白心可鍛鋳鉄、黒心可鍛鋳鉄、パーライト可鍛鋳鉄の特徴と性質
可鍛鋳鉄とは何か
鋳鉄の一つの欠点として、衝撃に弱く、伸びの値が低いと言う問題がありました。換言すれば、靭性、つまり粘り強さに欠けるという性質です。それを解消する材料として開発されたのが、この可鍛鋳鉄と呼ばれる鋳鉄品です。可鍛と書いてある為、鍛造かと誤解される方もいますが、これは鍛造している材料ではありません。単に、衝撃や曲げ方向の力が加わっても破壊されにくいことを示しています。
可鍛鋳鉄の種類
規格化され、実用化されているものには白心可鍛鋳鉄と黒心可鍛鋳鉄の二種類が代表的なものとして上げられます。白心、黒心の別は、材料を折った際に、その破断面の色で見分けることができます。白心は、この破面が白色をしており、黒心は逆に黒色となります。ねずみ鋳鉄の名称も、破断面が灰色(ねずみ色)をしているところから名づけられており、鋳鉄では折った際の断面の色にも特徴が出ています。
白心可鍛鋳鉄
成分上はS(硫黄)が多め、Si(シリコン)が少なめです。球状黒鉛鋳鉄が普及する以前は、強靭鋳鉄の代表格。熱処理によって、炭素(C)を除去することに特徴があり、金属組織としては、黒鉛がないため、鋼と似たものとなります。溶接できる鋳鉄でもあります。
厚みによって金属組織が変わります。厚肉断面で見られる組織としては、表面層にやわらかいフェライト層があり、中間層と中心部分に硬度に優れるバーライト組織を見ることが出来ます。
黒心可鍛鋳鉄
S(硫黄)が少なめ、Si(シリコン)が多め。黒鉛の形状や分布は金属組織の強度に影響するため、鋳鉄そのものの強度に直接かかわる要素です。黒鉛以外の鉄の組織はフェライトとなります。
パーライト可鍛鋳鉄
黒鉛以外の鉄の組織はパーライト組織となります。あるいは、オーステナイトの変態生成物の基地組織を持つこともあります。パーライトそのものは、軟らかい組織と硬い組織とが組み合わされた組織です。分類上は、黒心可鍛鋳鉄の一種とされることもあります。
可鍛鋳鉄の大きな特徴として、鋳造時点では黒鉛がありません。もともと炭素やシリコンを少なくしており、熱処理を経ることで、黒鉛を生成させていきます。熱処理のやり方によって、可鍛鋳鉄は、白心可鍛鋳鉄、パーライト可鍛鋳鉄、黒心可鍛鋳鉄といった種類に分かれていきます。
白心可鍛鋳鉄 | 白心可鍛鋳鉄 |
---|---|
高力白心可鍛鋳鉄 | |
オーステナイト地白心可鍛鋳鉄 |
黒心可鍛鋳鉄 | 黒心可鍛鋳鉄 | |
---|---|---|
パーライト可鍛鋳鉄 | ハーライト可鍛鋳鉄(鎖状、粒状、層状) | |
ベイナイト地可鍛鋳鉄、ソルバイト地可鍛鋳鉄、マルテンサイト地可鍛鋳鉄 迅速可鍛鋳鉄 | ||
合金可鍛鋳鉄(特殊可鍛鋳鉄) | 耐食可鍛鋳鉄 | |
高力可鍛鋳鉄 | ||
オーステナイト可鍛鋳鉄 | ||
ベイナイト地可鍛鋳鉄、ソルバイト地可鍛鋳鉄、マルテンサイト地可鍛鋳鉄 |
鋳鉄の用途
鋳鉄で最も多い用途は、自動車用として、シリンダーブロック、エキゾーストマニホールドやクランクシャフトなどエンジンまわり、足まわりの各種重要部材に使われています。自動車の低燃費化の流れの中で軽量化が必須となっており、エンジンではなくモーターで動く電気自動車の登場などで鋳鉄が使われる部材は減少傾向にあり、他の比強度に優れる軽い材料への置き換わりが進んでいるものの、未だ基幹部材で活躍しています。高温に耐えねばならず、耐摩耗性が求められ、制振性、硬度や靭性、複雑形状、熱伝導性などを総合的に鑑みた場合、コスト面でも物性面でも優位にある工業材料と言えます。
自動車用途以外での鋳鉄は、工作機械や射出成形機の旋回台、ボディー部分、ベッド部分など振動を吸収して安定させる必要がある用途でも活躍しています。減衰能に優れるだけでなく、耐磨耗性や剛性、温度・湿度による形状・寸法の変化のしにくさ、加工性のよさ、複雑な形状でも剛性を保ち続けられるといった工作機械、マザーマシンに備えていなければならない特性を持っている為です。
他に、建設機械、工事用車両の部材、冷蔵庫などの小型冷媒圧縮機、電気機器部品、鉄道車両用、船舶の主機関用、鉄管、鋳造棒、建物や景観鋳物、構造物各種などに幅広く使われている工業材料です。
可鍛鋳鉄の記号
可鍛鋳鉄についての国内規格である「JIS G 5705 可鍛鋳鉄品」には、以下の3種類が規定されており、それぞれ、4文字のアルファベットのあとに二桁の数字、ハイフンでつなげて二桁というのが一般的な可鍛鋳鉄品の記号となります。可鍛鋳鉄そのものは、FCMとなります。
記号 | 可鍛鋳鉄の種類 |
---|---|
FCMW | 白心可鍛鋳鉄品 |
FCMB | 黒心可鍛鋳鉄品 |
FCMP | パーライト可鍛鋳鉄品 |
可鍛鋳鉄品の最小引張強さは、直径12mmの試験片によるもので、アルファベットの後に続く二桁はこの最小の引張強さを10で割った値です。ハイフンでつながっている二桁の数字は最小の伸びの値を示しており、以下のように記述します。
- 例:FCMW34-04
- 白心可鍛鋳鉄品で、最小の引張強度が340MPa以上、最小の伸びが4%以上のもの。
規格の上では成分に関する規定は無く、熱処理方法も製造者に任せられているが、当事者間で取り決めることも出来ます。基本的には、指定されている機械的性質を満たしている必要があります。
可鍛鋳鉄品の寸法許容差、公差
成分の規定はありませんが、機械的性質のほか、寸法公差も規定として存在します。厚さと長さに応じて、より公差の厳しい精級、通常の並級との二つが定められています。
区分 | 10以下 | 18以下 | 30以下 | 50以下 | 80以下 | 180以下 | 400以下 | 800以下 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
寸法許容差、公差 | 肉厚(厚さ) | 精級 | ±1.0 | ±1.5 | ±2.0 | ±3.0 | − | − | − | − |
並級 | ±1.5 | ±2.0 | ±3.0 | ±4.0 | − | − | − | − | ||
長さ | 精級 | ±0.8 | ±1.0 | ±2.0 | ±3.0 | ±4.0 | ||||
並級 | ±1.0 | ±1.5 | ±2.5 | ±3.5 | ±5.0(黒心の場合は±5.5迄) |
なお、上記の長さと厚みの寸法公差(寸法許容差)には、下表に基づく抜け勾配の許容差を加算できる規定になっています。
抜け勾配の区分 | 外側 | 内側 | ||
---|---|---|---|---|
等級別 | 精級 | 並級 | 精級 | 並級 |
許容差 | 2/100 | 3/100 | 3/100 | 5/100 |
「JIS G 5705 可鍛鋳鉄品」に規定のある材料記号
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