オーステンパ球状黒鉛鋳鉄品、ADI鋳物の種類、特性、用途について
球状黒鉛鋳鉄の略称であるFCDに対し、ADIやADI鋳物とも言います。強靭鋳鉄の一種である球状黒鉛鋳鉄のうち、熱処理前の球状黒鉛鋳鉄をオーステンパ処理したもので、引張強さが高い割りに伸びもそこそこあり、ポテンシャルの高い性質持つ鋳鉄の一つと言えます。鋳鉄といえども、SCM材(クロモリ鋼)に匹敵する強度を持ち、高い磨耗性、靭性を備えた材料です。
ただ力を加えるほどに表面が硬化していく強烈な加工硬化を起こすことや、もともとの金属組織から加工性が悪く、切削などに使うには非常に難のある材料となってしまっています。このため、高強度、高靭性にもかかわらず使われる部位が限られてしまっており、メジャーな鋳鉄になり切れていない感があります。
このオーステンパ処理とは、ひずみの発生や焼割れを防止しつつも、強靭性を与える熱処理技法で、引張強さ、伸びの優れた材料を作ることができます。また靭性・耐磨耗性にも優れた鉄鋼材料となり、軽量化、耐磨耗、耐衝撃、低騒音等の機能上のメリットを付加することが可能とされる技術です。
用途としては、自動車部品をはじめ、建設用の金具、機械部品、設備部品、球状黒鉛鋳鉄の使われる部分にも使われることがあります。クランプ、チップホルダー、パンチ、自動車部品、各種金具、ハウジング部品など。
このADI鋳物、オーステンパ球状黒鉛鋳鉄品は、具体的には、金属組織がオーステナイトに変化する温度を維持しながら、ベイナイト変態温度に調整された油槽などにつけ急冷し、再度ベイナイト変態温度域の状態を維持して空冷する処理が施されています。
規格材としてのADIの物性は、すべて別鋳込み供試材となります。球状黒鉛化鋳鉄の、黒鉛の球状化率については、球状黒鉛鋳鉄に準じたものとなり、球状化率80%以上が標準となります。このため、耐磨耗性も健在です。
「JIS G 5503 オーステンパ球状黒鉛鋳鉄品」に規定のある材料記号
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