みがき特殊帯鋼の種類と特徴|JIS規格による成分や物性
みがき帯鋼とは、一旦熱間圧延した鋼板をさらに冷間圧延して製造される鉄鋼材料の一つで、鋼板の形状(切板)やストリップ(帯)の形状をしています。「みがき」とついていますが、みがき鋼の棒材のように引き抜きによって成形しているわけではありませんが、冷間圧延をしているため、板の表層に熱間圧延固有の黒いスケールがなく、一般的にイメージされる「鉄」の美しい輝きをもっています。基本的には熱間圧延したものを、あとから冷間圧延しているものですが、冷間圧延したものをさらに焼きなましを行うものもあります。
みがき鋼の特徴
「みがき」とついている鉄鋼系の材料は総じて共通する特徴を持っています。寸法精度のよさ、鋼板表面の状態がよく美麗、納入されたあと用途に応じユーザー側で熱処理が可能、といった点です。いずれも熱延鋼板や熱延鋼材の持つデメリットを補うものです。
炭素鋼や工具鋼でも、図面では「みがき鋼」の指定がないにも関わらず、実際に鋼材の製品として納入される形態は、みがき鋼やみがき帯鋼が求められることもあるため、よく確認する必要があります。
熱間圧延したままの鋼材というのは、表面に黒皮やスケールと呼ばれる酸化物が付着しているため、黒ずんでおり、鉄のもつシルバーの輝きとは程遠い見てくれをしています。したがって、人の目に触れるような箇所での使用には適していません。
また、寸法精度が求められるような用途では、バラつきが多く、高いレベルでの寸法精度や公差を期待することはできません。こうした問題を解決するために用いられるのが「みがき鋼」と呼ばれる、鋼材を冷間加工した製品です。
JIS規格では「みがき鋼」については、「みがき棒鋼」、それらの材料となる規格である「みがき棒鋼用一般鋼材」、「みがき特殊帯鋼」の三つについての規格が存在します。棒鋼とは、文字通り、棒材であり、バーとなる材料になり、板やストリップ(帯)に相当する規格についてはこの「みがき特殊帯鋼」がカバーすることになります。
サイズ、寸法としては長さ4000mm、幅600mmまでのものが一般的で、それ以上のものについては受渡し当事者の間で公差などの取り決めを行うことになります。厚さについては、0.10mm未満というものから4mmのものが規格の範囲ですが、それを超えるものについても、同じく受渡しを行う当事者で許容公差について取り決めることになっています。
規格におけるみがき帯鋼の種類
みがき特殊帯鋼の規格では、炭素鋼(9種類)、炭素工具鋼(6種類)、合金工具鋼(6種類)、クロム鋼(3種類)、ニッケルクロム鋼(3種類)、ニッケルクロムモリブデン鋼(2種類)、クロムモリブデン鋼(4種類)、ばね鋼(3種類)、マンガン鋼(2種類)の合計38種類の鋼材が規定されています。
それぞれ成分については主要5元素については、もとになっている鋼材と同じ数値となりますが、みがき帯鋼になると、さらにCu、Ni、Crの成分値が追加されています。また、冷間圧延した鋼材は加工硬化により、加工がしにくくなっているため、熱でやわらかくするための焼きなまし後に納入されるパターンもありますが、この際の硬度の上限が設定されています。
総じて、成分や組織、硬度が管理されている鋼材規格ということができます。硬さを指定する必要があるような場合は、通常の鋼材よりも使い勝手がよいかもしれません。
みがき帯鋼の材料記号
みがき鋼の材料記号は、元となっている鉄鋼材料の記号の末尾に記号がついているケースが多く、このみがき特殊帯鋼についても、記号の最後がMで終わっているものがこれに該当します。
鉄鋼メーカーごとに異なる記号を用いることが多い為、JISの記号が必ずしも使われるわけではなく、またJIS記号と完全に一致しているわけではありませんが、一つの目安にはなります。
みがき帯鋼の用途
みがき鋼には、非常に幅広い用途があります。これは元になっている鋼材の用途が広いことも起因しますが、冷延加工で精度があがっており、外観もきれいになっていることも関係しています。
用途の例を列挙していくと、窓枠や自動車のクラッチプレート、オイルクーラー、バキュームパイプ、パッキング、ワッシャー、トルコンプレート、二重巻パイプ、裁縫関係におけるホック、スナップ、安全ピン、ヘアーピン、電気器具部品、文房具、蝶番やシャッター、サッシュ、錠前、カーテンレールなどの建築資材、そのほか、ベアリング、リテーナー、チェーン、ケーブル、アーマー、ベアリングフープ、ファスナー、チェンローラー、自転車のリム等、非常に多岐にわたります。
みがき特殊帯鋼の厚さの許容差について
寸法、サイズについては厚さと幅、長さについての許容差が規定されており、厚みについてはAとBの二つのグレードが設けられています。AはBよりも精度の厳しい仕様となります。
厚さ | 厚さの許容差A | 厚さの許容差B | ||
---|---|---|---|---|
幅200ミリ未満 | 幅200ミリ以上600ミリ未満 | 幅200ミリ未満 | 幅200ミリ以上600ミリ未満 | |
0.10未満 | ±0.008 | − | ±0.012 | − |
0.10以上0.15未満 | ±0.010 | − | ±0.015 | − |
0.15以上0.25未満 | ±0.015 | ±0.020 | ±0.020 | ±0.025 |
0.25以上0.40未満 | ±0.020 | ±0.025 | ±0.025 | ±0.035 |
0.40以上0.60未満 | ±0.025 | ±0.030 | ±0.035 | ±0.040 |
0.60以上0.90未満 | ±0.030 | ±0.040 | ±0.045 | ±0.050 |
0.90以上1.20未満 | ±0.040 | ±0.050 | ±0.055 | ±0.060 |
1.20以上1.60未満 | ±0.050 | ±0.060 | ±0.060 | ±0.070 |
1.60以上2.10未満 | ±0.055 | ±0.070 | ±0.075 | ±0.080 |
2.10以上3.00未満 | ±0.065 | ±0.080 | ±0.080 | ±0.090 |
3.00以上4.00以下 | ±0.080 | ±0.090 | ±0.090 | ±0.100 |
幅の許容差
厚さ(ミリ) | 幅の許容差(ミリ) | |
---|---|---|
幅200ミリ未満 | 幅200ミリ以上600ミリ未満 | |
0.25以上0.60未満 | ±0.15 | ±0.25 |
0.60以上1.20未満 | ±0.20 | ±0.30 |
1.20以上4.00以下 | ±0.25 | ±0.40 |
長さの許容差
長さ(ミリ) | 長さの許容差(ミリ) | |
---|---|---|
幅200ミリ未満 | 幅200ミリ以上600ミリ未満 | |
2000ミリ未満 | +5、0 | +10、0 |
2000以上4000未満 | +10、0 | +20、0 |
「JIS G 3311 みがき特殊帯鋼」に規定のある材料記号
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