ヒートシール性に優れた袋やフィルムの種類
ヒートシールとはシーラントフィルムの口を熱や電流、超音波、高周波等で溶着させ封止する技術で、プラスチックの袋やフィルムを接着させたり、密閉させることができます。包装する上やプラスチック・樹脂フィルムを接着・接合させるためには欠かせない技術の一つといえます。
機械的にクリップで止めたり、縛ったりといった方法では隙間が大きくできてしまうため、ヒートシールは製品を密閉させることが困難な短所を補うことができます。このため、シーラーと呼ばれる機械で、袋やフィルムの口を熱して溶着させる技術が使われます。以下にこのヒートシールに適した袋やプラスチックフィルムの種類や特徴についてまとめていきます。
ヒートシールはフィルムをどうやって溶着させるのか
溶着させる方法は、平たく言えばアイロンのようなものでフィルム同士を熱して溶かし、閉じてしまう熱板方式がもっとも簡便なもので、ハンディな卓上シーラーなどを使って製品をつつむ透明なビニール袋やフィルムの口を密閉させることにも使われます。
他にも電流の強さで溶着を制御する「インパルスシール」や、ナイロンや塩化ビニル、塩化ビニリデン等一部の樹脂に限定的に使われる「高周波シール」、ほとんどの熱可塑性プラスチックや不織布に使用できる摩擦熱を発生させて溶着させる「超音波シール」等があります。いずれも熱を発生させてフィルムを溶かして接着させる、という点では同じです。
積層フィルムにおけるシーラントフィルムの役割
もっとも、プラスチックフィルムの多くはヒートシールで溶着して密閉状態の空間を作り出しても、フィルムそのものの表面からわずかな気体、水蒸気の分子などを通してしまいますので、完璧な密閉容器を作ることが難しいとされます。
とはいえ、昨今の技術開発によりガスバリア性能や水蒸気遮断性能に優れたプラスチックフィルムも上市されており、複数のフィルムを2層や3層程度組み合わせた積層フィルムの形で、バリア性能を高めたり、逆に空気は通しやすくするフィルム等も出ています。こうしたフィルムは、酸素などの気体や水蒸気の分子などを通しにくい性能がある一方、用途によってはヒートシール性に優れていないと使うことができない場合もあります。
ヒートシール性に優れたフィルムを挟み込む
こうしたケースでは積層フィルムの中にヒートシール性に優れたプラスチックフィルム、例えばLDPE(低密度ポリエチレン)を組み込むことで、ヒートシールに適したフィルムとして使うことができます。
例えば、延伸ポリプロピレン(OPP)は、これだけで構成されている単層フィルムの場合、ヒートシール性がよくありませんが、OPP/LDPEのように2層構造の積層フィルムにした場合、ヒートシール性が向上します。
同様に、酸素や湿度に対して遮断性能がきわめて高いアルミフィルム(金属フィルム)は、単体ではヒートシール性がよくありませんが、OPP/AL/LDPEのような3層構造の積層フィルムにした場合、ヒートシールの適性が上がります。
積層フィルムの構造
こうしたLDPEのような役回りのフィルムはシーラントフィルムと呼ばれます。高機能なフィルムになるほど、複数のフィルムを張り合わせた積層フィルムになっていきますが、3層構造のフィルムの場合、オーソドックスなものであれば、基材フィルム|バリアフィルム|シーラントフィルムという3つの役割を担うフィルムから構成されています。
- 基材フィルム
- 剛性や物理的強度や成形性、貼り合わせ加工適性、印刷適性など用途に応じて必要な適性を持つもの。プラスチックフィルムに印刷する場合はグラビア印刷が使われるため、フィルムにテンションをかけても伸びない抗張力に優れているもの。OPPやPET、Kコート品、ナイロン、PSなど。蒸着して基材フィルムにバリアフィルムの役割を持たせる場合もある。
- バリアフィルム
- 酸素や二酸化炭素をはじめとする気体・ガスに対する遮断性能、水蒸気や湿度に対する遮断性能に優れたもの。AL箔、EVOH、PVA、ナイロン、MXDナイロン等。
- シーラントフィルム
- 柔軟性があり、ヒートシールの適性に優れたもの。LDPEやL-LDPE等、以下に紹介するフィルム類。
ヒートシール性に優れるプラスチックフィルムの種類
以下に代表的なヒートシール性能に優れたシーラントフィルムに使われる材料の特徴、メリット、デメリットをまとめていきます。ほとんどの積層フィルムでもLDPEやL-LDPEが使われる傾向がありますが用途によっては他のプラスチックフィルムも候補となります。
低密度PE(LDPE)
低密度ポリエチレンは、ヒートシール性能が高く最も多く使用される廉価なシーラントフィルムです。低温シール性もあり、シール温度範囲が広い点も特徴です。耐寒性や耐酸性、耐アルカリ性などの耐薬品性に優れます。半面、耐熱性がない点や、酸素遮断性能、ガスバリア性能、耐油性がないといった点がデメリットとして挙げられます。また帯電性があるため、粉が付着しやすい傾向があります。
リニア低密度PE(L-LDPE)
Linear Low Density Polyethyleneの略称で日本語訳では直鎖状低密度ポリエチレンがあてられます。分子構造が直鎖状のことからこの名称がついており、ヒートシール性に優れたプラスチックです。透明、低温シール性がある点や耐寒性、耐酸性、耐アルカリ性といった耐薬品性に優れる点はLDPEと同じです。デメリットは耐熱性が低い、酸素ガス遮断性能が低い、耐油性が低いといった点が挙げられます。
水物をはじめ、液体に対する強度が強いものが求められるときには特にL-LDPEが検討対象となります。LDPEに比べ強度が強い点や耐熱性に優れる点もメリットです。
EVAやLDPEでは耐熱温度の関係で使用が難しかったボイル殺菌が必要なレトルト食品等の包装用フィルムにも使われています。
メタロセン触媒 L-LDPE|メタセロンポリエチレン
m-L-LDPEとも表記されます。別名、メタセロンポリエチレンとも言います。巻き取り等でフィルム同士が意図せずにくっついてしまうブロッキングが起きにくい、耐ピンホール性にも優れます。ヒートシール性は特に強く、水物によく使われるフィルムです。
低温シール性に優れ、衝撃強度があり、耐寒性も優れます。シール強度はL-LDPEとほぼ同じですが、超低温のヒートシール性を持つフィルムとなります。
夾雑物シール性や揉みに対する耐ピンホール性、低臭性(ポリエチレン臭が少ない)、高い透明性といった点も長所といえます。デメリットは耐熱性が低い、酸素ガス遮断性能が低い、耐油性が低いといった点が挙げられます。
無延伸ポリプロプレン(CPP)
熱に弱いフィルムが多い中、耐熱性に優れるシーラントフィルムとしても使えます。表面硬度も高めである為、突起のあるものなど他のフィルムでは傷がついてしまうような用途でも選ばれます。防湿性、防水性があります。また耐油性や剛度も高いです。
こうしたメリットの反面、デメリットとしては、シール温度が高いことが挙げられます。またその結果、シール温度範囲が狭くなります。長所でもある硬さは、デメリットにもなります。酸素などのガスバリア性能は低いです。
エチレン酢酸ビニル(EVA)
水物に強く、柔軟性や耐衝撃性に優れます。伸びがあって絞り性も良好。シール強度の強いフィルムとなります。ヒートシールする際に、シール部に液体や粉末などの内容物がついてしまっても密閉できる性能を夾雑物(きょうざつぶつ)シール性といいますが、この点においても優れた性能を持ちます。
ただ近年は、水物などの液体の包装用途にはL-LDPEに取って代わられています。デメリットとしては、滑りの悪さや酸素バリア性能に劣る点、ブロッキング(巻き取りや重ね置きなどで意図しないフィルム同士の接着)を起こしやすい点、酢酸ビニルの比率が高いEVAだと酢酸の臭いがする点が挙げられます。
酢酸ビニルの比率をあげると、やわらかくなるため、食品分野ではなく医療分野で使われることがあります。
アイオノマー
こちらもシール強度は強く、夾雑物シール性、低温シール性に優れたフィルムになります。EVAやLDPEと比べると深絞り性にも優れています。耐ピンホール性や耐油性に優れる点もメリットです。ただ、コストが高い点や滑りが悪い点がデメリットと言えます。
上記以外に、アイオノマーによく似たEMAA(エチレンエタクリル酸共重合体)や、EAA(エチレンアクリル酸共重合体)、EVAとよく似たEEA(エチレンエチルアクリレートル共重合体)といった酸コポリマー系のシーラントフィルムもあります。
主なプラスチックフィルムのヒートシール適性の比較一覧
下表に、主なプラスチックフィルムのヒートシール性やそれにかかわる他の物理的性質の比較を一覧にまとめています。◎は非常に優れる、〇は優れる、△は普通、×は劣るの意味となります。
表の下部にあるPET/LDPEのように表記されているものは、積層フィルムとなります。(1+3)となっているものは、PETが1μm、LDPEが3μmの厚さのものを積層したフィルムという意味です。LDPEをシーラントフィルムとして組み合わせることで、単体フィルムではヒートシールに適さなかったフィルムも優れたヒートシール適性を持つようになることがわかります。
種類 | 透明性 | 剛度(腰) | 引張強度 | 耐熱性 | 耐寒性 | 防湿性 | 酸素バリア性 | ヒートシール性 | シール強度 | 低温シール性 | ホットタック性 | 夾雑物シール性 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
LDPE | 〇 | △〜〇 | △〜〇 | △〜〇 | 〇 | 〇 | × | ◎ | 〇〜◎ | 〇 | △ | △〜〇 |
HDPE | △ | ◎ | ◎ | 〇〜◎ | 〇 | 〇〜◎ | △ | 〇 | △ | × | 〇〜◎ | × |
L-LDPE | 〇 | 〇〜◎ | 〇 | △〜〇 | ◎ | 〇 | × | ◎ | ◎ | 〇 | 〇〜◎ | 〇 |
EVA(5%) | △〜〇 | △ | ×〜△ | △ | ◎ | △〜〇 | × | ◎ | 〇〜◎ | ◎ | △〜〇 | 〇 |
アイオノマー | 〇〜◎ | 〇 | 〇 | △〜〇 | ◎ | 〇 | × | ◎ | 〇〜◎ | 〇〜◎ | ◎ | ◎ |
CPP | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ×〜△ | ◎ | × | ◎ | 〇〜◎ | × | 〇 | × |
Kセロ | ◎ | ◎ | 〇 | 〇 | △ | ◎ | ◎ | × | - | - | - | - |
PT | ◎ | ◎ | 〇 | ◎ | △ | × | 〇 | × | - | - | - | - |
AL箔 | × | △ | × | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | × | - | - | - | - |
OPP | ◎ | ◎ | ◎ | △ | △ | 〇 | × | × | - | - | - | - |
PET | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 〇 | 〇 | × | - | - | - | - |
ONy | ◎ | 〇 | ◎ | ◎ | ◎ | △ | 〇 | × | - | - | - | - |
CNy | 〇 | △ | ◎ | ◎ | 〇 | × | △ | × | - | - | - | - |
PVDC | ◎ | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ◎ | × | - | - | - | - |
PVC | ◎ | △ | 〇 | △ | 〇 | 〇 | × | × | - | - | - | - |
PVA | ◎ | 〇 | ◎ | 〇 | 〇 | × | 〇 | × | - | - | - | - |
K-OP | ◎ | ◎ | ◎ | △ | △ | ◎ | ◎ | 〇 | - | - | - | - |
K-PET | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 〇 | - | - | - | - |
OPP/LDPE(1+3) | 〇 | ◎ | ◎ | - | - | 〇 | × | ◎ | - | - | - | - |
PET/LDPE(2+3) | 〇 | ◎ | ◎ | - | - | 〇 | 〇 | ◎ | - | - | - | - |
PET/EVOH/LDPE(2+4+3) | 〇 | ◎ | ◎ | - | - | 〇 | ◎ | ◎ | - | - | - | - |
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