ビニールの水分、酸素、空気の透過率|プラスチックフィルムのガス透過率一覧
ビニールはプラスチックフィルムの一種とも言えますが、これらは水分や水蒸気、酸素や二酸化炭素、窒素やガスを一定量透過させます。日常的に使っている分には、水漏れは気にならないかもしれませんが、きちんと封止しているにもかかわらず「におい」が出てきてしまうといった経験はないでしょうか。あるいは水は通していないはずのに、湿気を通してしまっていると思しき状態に遭遇したことはないでしょうか。これは密閉していても分子が突き抜けてしまっていることを意味しています。
ビニールは水蒸気やガスを透過させる
プラスチックフィルムの持つこうした透過性は素材の種類ごとに異なり、中にはバリア性能の高いものもありますが、100%は遮断することができません。
まずビニールと一口に言っても、その材質や種類は結構多岐にわたります。元来のビニールは、ポリ塩化ビニルのことを意味しているのですが(後述の表のとおりこの素材の場合はかなり透過率は低く抑えられますが)、慣用的にビニール袋やビニールといった場合、薄いビニール状の袋やプラスチックで作られたフィルム、シートのことを差し、材質はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリビニルアルコールであるビニロン等になります。
透過性はプラスチックの種類ごとに違う
この透過性は高密度のポリエチレン(HDPE)と、低密度のポリエチレン(LDPE)でも違いますし、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン、ポリカーボネートなど素材によって空気や水蒸気の透過率は異なります。例えばスーパーや量販店などの買い物で供されるビニール袋は、ポリエチレンであるLDPEかHDPE、OPP(延伸ポリプロピレン)、IPP(インフレーションポリプロピレン)、CPP(無延伸ポリプロピレン)のいずれかのことがほとんどです。OPPとLDPEとでは、例えば酸素の透過度も8倍以上異なります。
ガスバリア性能で見る空気や気体をどれだけ通さないかの指標
酸素や窒素などの空気をどれだけ通さないかというガスバリア性能は、食品をはじめ、工業の分野でも包装や梱包を考える場合、重要となる指標の一つです。空気に触れると品質が劣化するものや経時変化してしまうもの、水分や水蒸気によって同様の変化をきたすものは、それを保護する包装材についても水蒸気やガスの透過度が低いものを選ぶ必要があります。
こうした際に下表で紹介しているようなガス透過度や水蒸気透過度が使われます。
なぜ水蒸気が透過してしまうのか
最近は、ゴアテックスをはじめとする水蒸気は通すが水を通さないという特殊な製品もレインウェア、ゴルフウェアをはじめとする製品でよく見かけます。これは、分子の大きさの特性を利用し、微細な孔を生地に作って成しえている技術です。こうしたウェアは水蒸気をとおすことで、蒸れを防ぐという効果があり、完全に水蒸気を通したくない、という場合に検討する水蒸気や水分の透過率とは少し違った意味合いで使われています。
ビニールをはじめとするプラスチックフィルムがなぜ水蒸気を通すのか、なぜ酸素や窒素、二酸化炭素などの空気を通すのかというのもこれと原理は似ています。水も結局のところ水分子であり、この分子を通してしまうのであれば、水蒸気が通ってしまうということになります。
フィルムの表面に吸着した湿気は、水分子としてフィルム内に溶け込んでいきます。この水分子は拡散しながらフィルムの中を通過して反対側の表面に達して蒸散する、という具合です。
ただ水蒸気の透過は、高湿度から低湿度の方向へ蒸散していきます。袋の内部が外よりも低い湿度であれば、水蒸気は高い湿度のほうから低い湿度のほうへ流れてしまいます。ただしこのときに水蒸気透過度の低い素材を使えば、水蒸気の透過をかなり抑えることができます。
それでも防湿や防錆目的でプラスチックフィルムが使われる
ビニールのような薄いプラスチックの素材ではカットできる量には限度があり、気体やガス、水蒸気を完全に遮断することはできませんが、用途によってはまったく問題のないレベルまで抑えることができるものもあります。
包装材料としては軽くて安く、様々なものを包むことができるメリットがあるため、完全に防湿や防錆を可能にする材料を使わずこうした選択肢が検討されることになります。
食品や工業製品の多くでも湿気や空気の透過を極度に嫌う製品は数多くありますが、これらすべてで完全にガスバリア性能を持った材料を使っていたのでは品物を届けることも適いません。
よほど高価で精度の要求されるものであれば可能なこともありますが、一般的にはどこかで妥協点を見出す必要があります。シリカゲルなどの湿気を吸うタイプの製品と併用されたり、防錆シートや防錆袋など薬剤が塗られたものとして使われる等、他の防湿・防錆手段と組み合わせて使われることも珍しくありません。
プラスチックフィルムの水蒸気透過度、酸素、窒素、二酸化炭素のガス透過度の一覧
下表は、すべてのプラスチックフィルムについて、厚さを25μmに換算した場合の値となります。
なお、水蒸気の透過率を抑えることができるからといって、気体の透過率を必ずしも抑えることができないのは、気体の分子のほうが小さいからです。分子の大きさだけが透過に影響しているわけではないことは、ある気体に対して同じようなガス透過度を持つフィルムでも、水蒸気や他の気体に対しては異なる値を示していることからも見て取れます。
下記のKコートとは、OPP(延伸ポリプロピレン)にポリ塩化ビニリデンコートを施したものです。ポリ塩化ビニリデン自体がガスバリア性能、水蒸気遮断性能に優れていますが、これをコーティングしたOPPになると、さらにバリア性能が上がります。
PVA、EVOH、PT、Kセロについては相対湿度が上がると酸素のバリア性能が大きく低下することが知られています。
種類 | 記号 | ガス透過度(ml/m2・d・MPa) 20℃、65%RH環境下 |
水蒸気透過度 (g/m2・d) |
||
---|---|---|---|---|---|
二酸化炭素 (CO2) |
酸素 (O2) |
窒素 (N2) |
|||
低密度ポリエチレン | LDPE | 185000 | 46000 | 14000 | 20 |
高密度ポリエチレン | HDPE | 30000 | 6000 | 2200 | 10 |
無延伸ポリプロピレン | CPP | 38000 | 8600 | 2000 | 11 |
延伸ポリプロピレン | OPP | 16800 | 5500 | 1000 | 6 |
ポリエチレンテレフタレート | PET | 4200 | 600 | 250 | 27 |
無延伸ナイロン | CNy | 2530 | 600 | 160 | 300 |
延伸ナイロン | ONy | 790 | 200 | 60 | 145 |
延伸ポリスチレン | OPS | 24000 | 50000 | 8000 | 160 |
ポリカーボネート | PC | 12250 | 2000 | 350 | 80 |
ポリ塩化ビニル(硬質) | PVC | 4420 | 1500 | 560 | 40 |
ポリ塩化ビニリデン | PVDC | 700 | <150 | 22 | 1.5から5 |
ポリビニルアルコール | PVA | 100 | 70 | - | 大きい |
エチレンビニルアルコール共重合体 | EVOH | - | 20 | - | 50 |
Kコート品(OPP) | KOP | 150 | 50から100 | 15 | 4から5 |
普通セロハン | PT | - | 100から10000 | - | 大きい |
防湿セロハン | Kセロ | - | 200 | - | 10 |
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