商物分離のメリットとデメリット
商物分離(読み方:しょうぶつぶんり)とは、営業マターとなる客先との売買・商取引と、商品の現物出荷・納入にかかわる物流業務を分離するという意味を持ち、わかりやすくいえば、営業担当が自分で納入を行うというような物流業務からは手を放し、物流部門が受注から出荷・納入を請け負うという施策のひとつです。商物一致(読み方:ちょうぶついっち)というのがこの反対の意味を持つ用語です。
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商物分離と商物一致
何を当たり前なことを、と思われる方はすでに商物分離が徹底された業務環境におられる方かと思います。実際には営業が客先からの注文書を受け取り、それに基づいて商品を仕入れたり、営業在庫から注文のあった品物をピックアップして自ら営業車に積み込んで顧客へ納品するという業態をとっている会社は多くあります。販売と納入が一致しており、これが商物一致の世界です。
この場合、在庫の仕入補充のための発注、納期調整、安全在庫数の決定や数量管理、梱包、積み込みといった業務が営業の手でなされることになります。
規模が大きくなるほどにこの商物分離を徹底しないと営業部門を極めて非効率な部隊としてしまうか、物流業務を行うスタッフも営業部門内に抱える肥大化した組織にしてしまいます。営業部門が営業活動に専念できるように考案され、在庫管理や受注から配送まわりの面倒を別のロジスティックスにかかわる部門が見る、というのが商物分離の根底にある思想です。
分離した場合、具体的には倉庫にしても配送センターや物流拠点を設けてそこで集中管理していくことになります。また営業担当が自分で在庫を行っている場合、特定の在庫をいわば自分の在庫のように私物化してしまう現象もあり、競争相手である社内の他の営業担当には使わせない、何個あるかも分かるようにしていないというケースすらあります。在庫の仕入れや処分にも裁量があるため、在庫が増えがちで管理もずさんになってきます。営業は売り上げを上げることがノルマですが、在庫削減が目標になることはまずないためです。
これを会社の共通の資産としてより効率的に活用するにはどうすればよいかという発想のもと、在庫管理を行う部隊を分けるというのは一つの大きな発想の転換とも言えます。営業在庫として運用する問題点は、「工場在庫と営業在庫」でもご紹介しています。
商物分離の事例
商物分離は大きくは2つのパターンがあり、その中でもさらにどの程度の営業事務的な業務や在庫管理を、営業外の部門が行っているかによって細分化されます。この辺りは各社の経営資源の活用方法などの戦略や社内政治、マンパワーの問題などもあり、一概に一括りにできず、会社が違えば、同じ業種や同じ規模でも線引きがかなり異なることがあります。
実施主体による分離基準
- 1.社内で営業部門、物流(ロジ)部門と担当部署を分ける
- 2.物流(ロジ)の一部または全部を社外へ委託する。いわゆる客先への納入代行を外部の会社に委託。
仕事内容による分離基準
業務分野 | 委託内容 |
---|---|
在庫管理 | 現物の入出庫業務と記録、在庫表の作成・提供 |
在庫の補充発注業務を実施 | |
基準在庫の設定を実施 | |
入出荷管理 | 入荷したものをそのまま出荷するのみ |
荷姿の変更、詰め替えが必要 | |
出荷時や入荷時の検品を実施 | |
受領書や納品書などの伝票・帳票類の管理運用 | |
受発注管理 | 客先の注文書や納入指示は営業部門に入り、それが情報展開される |
客先の注文書や納入指示が直接物流倉庫サイドに入る | |
受注には固有のシステムの導入が必要でそのシステムを物流倉庫側に入れている | |
客先対応 | 客先からの連絡は営業部門が受け、そこからの指示に基づき出荷を行う。 |
倉庫側で客先のスケジュール等を把握し客先からの追加注文などの問い合わせも受け納期調整交渉まで実施する | |
物流上の不具合におけるクレーム窓口としての対応も行う | |
不具合品の代品納入や客先へ納入されてしまった不具合品の回収も行う |
メリットとデメリットの比較
上記のように仕事内容をどの程度まで営業外の部門が行っているのか、あるいは委託しているのかによってメリットとデメリットも異なりますが、下表に代表的な内容をまとめます。
メリット | デメリット |
---|---|
|
|
冒頭で述べたように商物分離は、営業担当を物流業務から解放させる施策とはいえ、実際に導入する場合は「営業施策をどうするか」という点と、「在庫の全社管理によりどのように経営資源の効率化をはかるか」という点は事前に吟味しておくべき内容といえます。
お客さんへ自社の製品を納入がてら訪問し、そのたびに世間話や情報を聞き出して役立ちそうな提案を行っていくという昔ながらの御用聞きの営業スタイルを続ける場合、一概に商物分離がいいかと言われるとそうとも言い切れない部分があります。
自社の営業規模やスタイル、人員の問題を複合的に考えてどのような販売と納品物流の取り回しにするか社内で議論するのもひとつの経営改善です。この際、物流と商流がどのようになっているのか、模造紙に図式化して書いてみて誰が見てもわかるようにして議論すると生産性の高い会議になると思います。
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