廃棄と廃却の違いは

2021年11月27日更新

廃棄と廃却の違いはほとんどの辞書には載っておらず、廃却に至っては意味が掲載されている辞書も限られている用語です。表記ゆれが発生してもどちらに統一すべきか悩ましい用語です。工場や会社で使われるようになった在庫や設備、機械類の廃却という表現は、使わない人にとっては全く使わず耳にもしない用語です。対して廃棄は一般的に使う表現で、例えば広辞苑では「不用として捨て去ること」と定義されています。

特に使い分けが会社や業種によって異なりますが、特定の文脈や単語とセットで使われるため、慣習的に廃棄のほうが良い、廃却のほうが良いというようなことがビジネスの実務では発生することがあります。食品を廃却するとはあまり聞きませんが、金型や在庫を廃却するというのは逆に工場ではよく聞く表現です。

とはいえどちらを使っても差し支えない状況も多々あり、本質的に違いはないといえます。使い分けているとすれば、それは社内用語や業界用語に類するものです。在庫を廃棄する、在庫を廃却する、設備を廃棄する、設備を廃却するといった場合どちらでも違和感はありません。工場や製造業の分野ではこうしたケースでは廃却という用語が好まれるような印象がありますが、これも会社によりけりとしか言いようがありません。

一方、固有名、名詞の一部に組み込まれている場合は、どちらか一方を使うことが多い印象です。例えば、産業廃棄物といいますが、産業廃却物というのは少し違和感があります。廃却伝票とはいいますが、廃棄伝票というには何かしっくりきません。

廃却証明書、廃棄証明書はどちらも物品によるのかもしれませんが工場の設備や部品などは廃却証明のほうがしっくりします。

固定資産には除却損という用語がありますが、これを廃棄損とはあまり言いません。この「却」という漢字に秘密がありそうですが、広辞苑を繰ると、「却」には次の意味があります。

却の意味
  • 1.しりぞく。あとずさりする。「退却」
  • 2.しりぞける。おしかえす。「却下・返却」。とりはらう。すべて排除する。「売却・忘却・消却」
  • 3.かえって。予期に反して。「月行却与人相随=月行かえって人と相随う」〔李白〕

廃却はこのうち、2にかかる用法です。すべて排除する、この辺りの意味を含ませた用語ということが分かります。会社内では、手続きを完了させて完全に捨てること、という場合に廃却という表現をあてて、単なる廃棄とは区別して使い分けているケースもあります。こうなると完全に社内用語や企業文化の世界です。

却を使った表現と意味をまとめると下表のようになります(いずれも広辞苑より)。

廃却の「却」を使った用語
言葉 意味
棄却 すてて用いないこと。すてて取りあげないこと。
遺却 忘れさること。
閑却 打ち捨てておくこと。なおざりにすること。
解却 官職を免ずること。免職。
減却 へること。また、へらすこと。
失却 物を失うこと。また、忘れること。
焼却 焼き捨てること。
阻却 さまたげること。しりぞけること。
脱却 ぬぎすてること。すて去ること。
破却 やぶること。こわすこと。
忘却 すっかり忘れること。
滅却 ほろびること。ほろぼすこと。つぶれること。

会計の用語からという説もありますが、棚卸資産の廃却損(廃棄損ともいう)、評価損という場合は、どちらも使える一方、科目の商品廃棄損というのは決まった用語になっています。廃棄と返却の合成語という説もありますが、慣用的に使われる廃却の意味に、返却のニュアンスはもはや残っていません。

以上から考察すると、廃棄のほうが一般的な表現であるため、

廃棄と廃却の違いのまとめ
廃棄 廃却
こちらのほうが正式な日本語表現。汎用性高く、廃却の代わりに使用しても固有名詞や社内用語以外では違和感がない。 工場や企業で慣習的に使われるようになった表現が、固有の手続きと紐づいたもの。廃却伝票のように社内用語でこの用語が使われることもあるが、逆に廃棄として使われている部分を廃却に言い換えると違和感のある表現が多数ある。

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