在庫の日数はどうやって決める?
もつべき在庫の日数をどうやって決めるかは、欠品を防ぐという運用面、在庫金額を減らす、あるいは適正在庫を維持するという経営面の双方から在庫管理における根源的な問いの一つです。
この持つべき基準在庫をいくつにするかという問題は在庫量、在庫の保有コスト、在庫金額に直結する指標だけに、「勘でやっている」「なんとなく」ということのないように理論立てて説明できるもののほうが望ましいといえます。この指標如何で在庫が過剰にも過小にもなります。とはいえベテランのカンコツでやってしまっているという在庫管理の現場も少なくないと思います。重要なのは、基準在庫の合理的な計算方法や算出方法があるということと、データで判断できる体制にするということです。担当が変わってしまうと在庫管理がガタガタになってしまい欠品が起きたり過剰になったりという事態は誰しも避けたいものです。
絶対数ではなく日数管理の妙
まず在庫日数とは、在庫保有すべき数量が需要の何日分に相当するかという考え方に基づくものです。例えば、今月は20日の稼働日(営業日)があり、日当たり200個の販売・出荷を見込んでいる製品があったとして、その製品が常時400個の在庫を持っているとしたら、在庫日数は2日となり、2日分の在庫を持っているということになります。
一律でこの製品は最低500個の在庫を持つという設定を行うよりも、在庫の日数で管理したほうが顧客や工場の必要数・需要数にあわせて数量が変えられるため、臨機応変に対応できるメリットがあります。この例では2日分と設定していた場合、客先の需要が日当たり1000個になれば、2000個の在庫になりますし、日当たり100個なら200個の在庫になるということで、売上と在庫の比率をある程度一定に保つこともできます。
在庫日数に含まれるもの
基準在庫を決める際に何を入れるかというのは会社や担当者ごとの考え方にも大きく依存します。通常は、「手配変動に対する安全分」「補充にかかる期間」「欠品許容率」が加味されています。また、「在庫だけでまかなうのか(追加発注ができないのか)」、「事前に手配変動に関する情報をどこまで取れるか」といった点も大きく影響します。
順番に見ていきます。
1.手配変動に対する安全分
営業や工場、客先から需要予測を入手したり自分たちで計算した予測をもとに、「出荷がどれくらいあるか」という見込み情報を用いて在庫を持ちますが、この予測に対して実際の確定発注がどれくらい変動するかという「振れ」「偏差」の部分を安全在庫として持つのがこの部分の意味となります。平均値に対しての実際の出荷数のバラつきと言い換えてもよいかもしれません。
例えば客先から翌月の発注予定数が内示として提供されている業界とします。来月2000個で20日出荷日があり、平準での出荷を見込んでいる場合、日当たり100個の出荷となります。客先がこの通りに発注した場合、振れは0で、安全分は不要ということになりますが、実際は市場状況によって需要はめまぐるしく変動します。
月間2000個(日当たり100個)を予定していたのに、実際は月間4000個(日当たり200個)の受注がきた、しかも欠品は許されないという場合、この振れに対応できるだけの在庫を持っておくという発想です。どれくらいの振れ率や変動幅に対応すべきかというのは在庫だけでまかなうか、あるいは以下の2と関連し追加発注がどういう条件でできるのかによっても大きく変わります。「在庫のみ」で対応し、事前に変動情報を入手して影響を小さく抑えるという動きができないという仮定だとそれこそ膨大な在庫を抱える計算になってしまいます。
またこの変動は「確率」で出さざるを得ないため、「客先からの急な増産に伴う発注増」という事態には通常の在庫ではそもそも対応できませんので、こうした事態まで在庫で対応するということを考慮しない考え方もあります。つまり、急増や急減の情報はある程度前もって情報が入ってくる、という前提でそれに対処できるための時間稼ぎ用の安全在庫だけ持っていればよいという考え方です。
例えば自動車部品の業界では慣習的に20%〜30%の増減は許容範囲というような暗黙の了解があります。こうした場合、この範囲を超える場合は事前に客先から通知があるものという前提で在庫を組み立てることもできます。
2.補充にかかる期間
これは製造工場や仕入先に対して補充発注してからどれくらいで納入してもらえるかという期間と発注受付の間隔を合計した期間です。また、週に1回決まった曜日に定期的に発注しており、納入日も週に1回という場合と、発注は毎日で翌日に入荷するという場合、追加注文をかけることができるか否か等によっても状況は変わります。
また、数量の変動に対してどれくらい対応してもらえるかという点も影響します。翌月の発注予定数を内示情報という形で伝えている場合、仕入先はその数量で準備していることになるため、この内示からどの程度変動があってもついてこられるかという点です。安全をみて数十%までは対応できるように材料をそろえ生産計画を変更できたとしても、見込みが2倍だったらどうでしょうか。あるいは普段は毎週1000個の発注をしているのに、これが5000個になったらどうでしょう。
こうしたことを加味して、補充にかかる期間というのは以下によって増減します。
- 仕入先(工場)に発注してから納入にかかる期間(発注締め切り日時と納入日時)
- 仕入先(工場)は内示情報からどの程度の変動が許容できるか
- 定期発注法(決まった期間、間隔での発注)の場合、追加発注がどのような条件でできるか
3.欠品許容率
欠品率やサービス率ともいいます。注文に対して100%欠品を起こさず応えられることに越したことはありませんが、受注ありきの世界で理論上100%ということはありませんので、許容できる率を設定します。1000回の出荷のうち、999回は在庫がショートしない、あるいは100回のうち1回までは欠品が許容できるといった率になります。ただしショートしても納入に対して欠品せず、挽回の方法があるならその方法を加味して在庫日数に加算という方法もあります。この場合、上記の2に入ります。
こうした取引の性質上欠品が許されない場合、この欠品率やサービス率ではなく、仕入れの挽回納入にかかる最短期間を加味していることもあります。ただしこうした場合、過剰な在庫になりがちで、より最適な在庫を狙っていくのであれば、標準偏差の考え方(出荷個数と回数の分布)を導入すべきです。
在庫日数の計算方法
上記に述べた在庫数量に加算すべき要素をどのように計算に組み込んでいくかという話になります。在庫すべき日数はいくつかの決め方があります。以下に例示します。
- 1.在庫すべき日数=補充にかかる日数+手配変動に対する安全分
- 2.在庫すべき日数=月間内示数量/安全在庫|安全在庫=√補充にかかる日数×標準偏差×安全係数
- 3.在庫すべき日数=(入荷間隔での最大の必要日数−通常必要となる日数)+入荷遅延日数の平均もしくは挽回にかかる最短日数
1.在庫すべき日数=補充にかかる日数+手配変動に対する安全分
最もシンプルな在庫日数の設定方法のひとつです。受注数が一定の範囲内しか変動しない場合や仕入先・工場がその変動幅に応えられる場合、受注数の振れ率(出荷数のバラつき)を考慮せずに、補充にかかる日数だけで設定することもあります。
月次で内示情報が入手できる業界で、出荷数がその内示情報のパー割に近い数量となる場合は、補充にかかる日数だけでも十分に在庫がまわることがあります。仕組みとしては、客先から受注すると同時に、仕入先へも同じ数だけ発注が飛ぶようにしておけば、補充発注後に仕入先から納入され出荷できる状態になるまでの日数分だけ在庫しておけばよい、ということになります。自動車部品業界に多いかんばん方式も、かんばん枚数をぎりぎりで運用する場合、これに近い考え方です。タイミングをさらにあわせることができれば、在庫日数1日分を切るということも可能です。
手配変動に対する安全分というのはあらかじめ客先から入手していたり営業予測・販売予測としてたてている「出荷予測」からどの程度まで変動しても対応できるようにしておくかという安全在庫のことです。
極端な例にしておくとわかりやすいですが、1日分だけ在庫を持っていればよい、という場合を考えてみます。1日分の出荷予測が100個の場合、受注が予測と同じであれば100個だけ持っていればよいということになりますが。仮に20%上振れする可能性を見越している場合は、120個持っておく必要があります。この手配変動に対する「対応力」となる部分の計算は、一律で20%や30%とすることもできますが、そうすると上振れ方向にしかならず、在庫が多めになることがあります。契約でこうした変動幅にしか絶対にならないという場合は、こうした方法でもよいかもしれませんが、変動の幅の予測がよくわからない場合は、下記の2における標準偏差と安全係数の考え方を導入するのも一考の価値があるかと思います。
2.在庫すべき日数=月間内示数量/安全在庫|安全在庫=√補充にかかる日数×標準偏差×安全係数
1日分の安全在庫を何個持てばよいか、という問いに対して、古くから使われている公式になります。1で述べた「手配変動に対する安全分」に確率の考え方を導入し、数学的に妥当な安全在庫を計算する方法となります。
ただしこの方法を機械的に導入すると在庫が多くなりすぎるという批判もあります。たとえば現実的には補充発注のタイミングや補充する数量によってもリードタイムは変わりますが、この計算式では固定のものとして考えられています。また安全係数についても基本的に挽回の方法や一時的に費用をかけてしのげる方法がないという前提で在庫を持つという考えのため(在庫だけで変動に備え、先行での情報収集で追加補充発注やチャーター便での輸送時間短縮等ができない前提)、100%に近いものを求めると非常に大きいと感じる在庫数になってしまいます。
補充にかかる日数
これは仕入先や工場に発注を出してから実際に納入されるまでの日数と、発注間隔の日数を合計したものです。今日発注して明日納品される条件で、いつでも発注できるのであれば、1日となり、√1=1となります。ただ実際には翌日納入のような極めて好条件であっても注文の締め切り時間は決まっていますので、そこを過ぎれば翌日の注文となります。この場合、1+1=2となり、√2というのは補充にかかる日数になります。
なぜルートなのかというのは、この計算式が乗数になっていることとも関係しています。補充にかかる日数に掛けられているのは(標準偏差×安全係数)ですが、これらは受注のバラつきとそれに対応できる確率を掛けたもので、1日分の安全在庫がいくつかを示しています。
ここにルートなしの日数をそのまま掛けた場合、そのリードタイムの日数の期間中、ずっと平均値を上回る出荷数となる想定になります。例えば、5日のリードタイムとして、(標準偏差×安全係数)=安全在庫が10としたら、×5とした場合は50になり、5日間ずっと平均値を上回る在庫数を保持するということになります。
安全在庫は予測の誤差を踏まえた数字になっていますが、リードタイム分となる5日間分の誤差をすべて合計してそれに備えるようにするのであれば×5となりますが、これは誤差の分散となるため、標準偏差に変換してやると標準偏差=√分散となるため、√5となります。
この計算方法での在庫は平均値を上回る値と下回る値はそれぞれ50%の確率で出現しますが、リードタイム5日だった場合、5日間のばらつき度合いというのは、1日当たりのばらつき度合いの√5倍となります。
√5×10とした場合、約22.36個となり、前述の50個は確率の計算では多すぎるということになります。
標準偏差
ある製品についてみた場合、その製品の出荷数のばらつきの度合いを見ることができます。標準偏差が大きければ出荷数のばらつきが大きいということになります。逆に標準偏差が小さければ出荷数のばらつきが少ないとなります。
毎日の出荷数が平均値と比べてどれくらい±差があるかを示したものが「偏差」になります。標準偏差とは、標準的な平均値との差がどれくらいになるかを示したものです。
標準というのが分かりづらいですが、平均出荷数が100個とした場合で、標準偏差が5の場合、100±5(95〜105)の間に約68%が収まるということです。
標準偏差の計算方法はエクセルで関数を使うとすぐに出ますが(STDEV.P関数またはSTDEV.S関数)、計算式としては以下の手順となります。
- 1.指定した範囲の平均出荷数を出す
- 2.指定した範囲の出荷数と平均出荷数の差を出す(偏差を出す)
- 3.指定した範囲の各日の{(偏差)2の合計}÷データの個数(分散を出す)
- 4.分散=標準偏差2となるため、標準偏差=√分散になる。したがって、√上記3で出した値が標準偏差になる。
安全係数
安全係数に対しても、「欠品が許されない」という現場は多々あると思いますが、それでも100%の設定は確率の世界ではできないため、仮に99.99%のようなサービス率(欠品せずに供給できる確率)を設定すると時に信じられないような安全在庫となってしまいます。
サービス率が95%であっても、5%の確率で欠品することに対して何らかの方法で挽回する手段があり、客先への納入が遅延・欠品しないということであれば、サービス率を99.99%にするのと、コストや実益を比較してどちらがメリットがあるかという判断が必要になります。したがって、このサービス率の設定が一番厄介な部分になります。
下表に安全係数とサービス率の対応表の一例を記載します。これは正規分布表で導き出されるものです。
- 欠品率=100−サービス率
上記計算式の関係が成り立ちます。
サービス率 | 欠品率 | 安全係数 |
---|---|---|
84.1% | 15.9% | 1 |
85% | 15% | 1.04 |
90% | 10% | 1.28 |
95% | 5% | 1.64 |
96% | 4% | 1.75 |
97% | 3% | 1.88 |
98% | 2% | 2.05 |
99% | 1% | 2.33 |
99.9% | 0.1% | 3.08 |
99.99% | 0.01% | 3.62 |
安全係数によって、1倍と3.62倍とでは在庫の持ち方がまったく変わってしまうことになります。
3.在庫すべき日数=(入荷間隔での最大の必要日数−通常必要となる日数)+入荷遅延日数の平均もしくは挽回にかかる最短日数
これは過去の出荷実績から、内示と実績の変動幅の最大値を算出して、内示に対して最大どれくらい確定発注が変動するかを予測し、その変動があった場合に必要となる最大の在庫日数を使って計算する方法です。
例えば毎週1回しか入荷しない製品があるとします。出荷も入荷も週に5日で土日は休みと仮定します。
過去1年間の週間での内示−確定の振れが180%とします。これは客先や営業・販売部門からの週間の内示が例えば1000個であったのに、最大1800個の出荷があったことを意味します。
1日分の予測出荷数は、月間内示を出荷日数で割った数字とします。
この場合、180%×5日分=9日分の在庫が1週間で最大必要となります。9日分−5日分(通常必要な需要予測在庫)=4日分が安全在庫のうち、手配変動分として必要なことが分かります。これに万が一の場合に備えた日数を加算します。ここでは入荷遅延日数の平均もしくは挽回にかかる最短日数を想定していますが、それ以外のものでも構いません。入荷遅延日数を入れる場合、船便を使った輸入品では遅延が頻発する為、その平均日数が例えば7日であれば、4日+7日=11日分の在庫を持っていればよいという試算になります。
過去の最大値をとるという点から確率の考え方を取り入れる計算方法とは相容れない手法ですが、輸入品などの在庫基準としては簡単に設定ができるメリットがあります。
在庫の日数を決めるというのは、安全在庫に基づいた基準在庫を決めるということであり、在庫管理におけるまさに肝となる部分です。上記の例だけでもいくつか方法がありますが、どの現場でもこれがベストと言えるものはなかなか難しく、業界や業種、会社ごとに検討を重ねられているというのが実情かと思います。
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