不動在庫の定義とルール

2021年11月27日更新

不動在庫とは不良在庫ともいいますが、型落ちなどで本来の価格で売れなくなったものや、販売見込みがなくなってしまった在庫を意味しています。会社によって定義や基準が異なるので、使う際にはどのような意味か明確にしておきたい用語です。

同じ社内でも部署によってこの用語の定義に違いがあると、棚卸や在庫低減などの取り組みの際、齟齬をきたすことがあります。また不動在庫と同じ意味合いを持つ別の用語、例えば膠着在庫や長期在庫という言葉を使っている会社もあります。在庫分類についてのこうした用語は、様々な現場で使われてはいますが「この用語をこういう意味で使わないといけない」という絶対的なルールや規格はそもそも存在しません。

不動在庫の定義

多くの企業では、不動在庫を「量産で使用されていたものが打ち切りとなり修理等に使う補修用途や補給品のみになったり、6カ月や1年間など一定期間流動や販売がなかったりした在庫」と定義づけています。ただしこうした定義はどこでも共通というものはないのが実情ということになります。しいていえば、「膠着」している在庫であるという点は共通です。しかしながら、それが何年膠着したら不動になるのか、という共通の基準がありません。

不動在庫の定義とルール|目次
  1. 不動在庫の定義がなぜ必要なのか
  2. 不動在庫の定義例

不動在庫の定義がなぜ必要なのか

そもそも不動在庫という用語がなぜあり、その定義を細かく決める必要がある理由は、会計上の要因が絡んでいます。ごく簡単に言ってしまえば、「在庫の損切り」のためです。以下具体的に説明していきます。

例えば仕入れ時に100万円の在庫があったとして、20年間全く売れない場合、この100万円はその会社の資産として帳簿に残し続けてよいのかという問題があります。在庫は経理上、現金化にそう長くかからない流動資産のうち「棚御資産」に計上されますが、こうした在庫が果たして資産なのかという点です。資産価値としては下手をすれば0円になっているかもしれないものを、100万円で仕入れたからという理由でいつまでも100万円の資産として株主をはじめとするステークホルダーに主張できるのかという問題でもあります。

このような事例を放置しておくと、どう見ても在庫の価値が下がっているのに実態と乖離した帳簿になってしまいますので、決算書が企業の財務状況を正しく示したものとは言い難いものになってしまいます。そこで各企業が定めたルールのもと、在庫の価値を減少させる評価減の処理を行うことが会計基準で求められています。具体的には、在庫の「価値」を下げて帳簿に計上する方法と、在庫を廃棄した際の損失として計上する方法があります。会計上は前者が棚卸資産評価損、後者が棚卸資産廃却損ということになります。

そもそも在庫を一体いくらで計上すればよいかというのは「棚卸資産の評価に関する会計基準」で定められていますが、この価格や単価がどういう場合に「減」となるかはおおむね以下の3つの分類されています。

物理的な劣化
傷・汚れ・錆・品質劣化など、在庫品の保管中に何らかの品質低下が起きて本来の用途で使うことができなくなった。そもそも金銭的な価値がないことが分かります。
経済的な劣化
経済的な劣化とは、上記の物理的な劣化や欠損がなくても、モデルチェンジや流行遅れ、新製品の販売開始による型落ちなどによって、在庫の価値が経済的に陳腐化して価値が低下することです。つまり、従来の価格では売れないので価値を下げる必要があり、価値が下がってます。
市場の需給変化
市場の需給変化に起因するというのは、いわゆる販売見込みが打ち切り等により無くなったり、補修専用品になったりといったことを指しています。

要は、これら3つのどれかに該当することになった在庫は、資産価値を下げる必要がある、ということです。これらに該当するものを「不動在庫」として会社で定めているなら、それについての細かいルールは各社で考えてよいということになります。

ただ別にこれら3つに該当するものを不動在庫と呼ぶ必要もなく、好きな分類の在庫で呼ぶこともできますし、それぞれに別の在庫分類の名称を付けることもできます。混乱なく効率的に業務をする、というのであれば、こうした在庫の資産価値を下げなくてはいけない在庫をひとまとめにして「不動在庫」として定義付けてしまうのが効果的、というだけの話になります。

これがこの用語の実態ですが、評価減とする在庫として定義づけているのであれば、不動在庫の削減活動として在庫管理の目標設定に上がってくる項目の一つで、KPIとしても使うことができる指標にもなります。

不動在庫の定義例

不動在庫の定義を毎期ごとに都合の良いようにころころ変えてしまうと会計基準としては成り立たなくなり、同じ「棚卸資産」でも年度ごとに価値が違うということになりかねません。例えば、利益が多くなる見込みの年に、評価減とする在庫を増やせば利益に対してかかる税金を減らすというような利益操作ができてしまいます。このため、不動在庫の定義は会計基準に則り、各企業が実態に合わせて設定するとしても、原則的には決めた定義は使い続ける形になります。

以下に定義例を列挙していきます。実務上はこれら一つまたは複数を組み合わせて使われています。「販売見込みがない」というような場合、何をもってそうした状態になるか基準や定義を作っておくとよいでしょう。例えば客先からの打ち切り連絡の書面があったもの、というようなものがトリガーとなるのであれば、社内でも意味にずれが生じませんし、対外的にも筋の通ったルールと言い切ることができます。

  • 6か月間流動がない
  • 1年間流動がない
  • 量産打ち切りにより補修部品だけの需要になった
  • モデルチェンジにより生産が終了した
  • 物理的に劣化しており廃棄待ちの状態
  • 品質不具合や不良となっており客先へ出荷できない状態
  • 販売見込みがないことが分かっている状態

ビジネスの実態にあわせて定義し、この在庫が定義に則ってもどちらかよくわからない、あるいは都合のいいように解釈できるということのないよう明確な言葉をもって設定する必要があります。このため、人によって解釈が異なってしまう基準は使うことができないため、使う用語自体も細かく意味を定めておくのが一般的です。

業界によっては6か月程度出荷が止まってもまた出荷が再開するのは一般的であったり、そもそも在庫が陳腐化することもなく、物理的な劣化・経済的な劣化・市場の需給変化も起きなというものであれば、この期間での設定は適切ではないということになります。

通常の在庫が不動在庫に転じると、その時点で在庫の価値が下がる評価減になり、企業によってはその在庫の帳簿上の価値を0にすることもあります。つまり損失としてあがってきます。したがって、何を不動在庫にするかを明確にして毎期ごとに適切に在庫と不動在庫を切り分けていく必要があります。

こうした性質上、在庫を廃棄する場合も、通常の在庫なのか不動在庫なのかによって社内の会計処理が異なることがありますので、対象となっている廃却品が不動在庫か否かというのは重要となるわけです。一例として、不動在庫として計上した段階でいったん評価減として在庫の価値を減らし、その在庫を廃棄する段階で在庫の価値をいったん戻してからまた損失として計上するというような運用を行うケースもあります。企業によっては不動在庫の一覧を毎期ごとに作成して管理しています。

注意を要するのは、甘い基準にして不動在庫による評価減が抑えられるようにしたところで、動かない在庫というのはそれだけでコストがかかり、会社の貴重な経営資源を食いつぶしているということです。また、過去に不動在庫の評価減を回避するために、無意味な倉庫間移動を繰り返していたというような事例もありますが、最終的にはこうした不正は自社に跳ね返ってくることになります。

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