棚卸での監査のポイント
期末時の棚卸で、実施部門が気を遣うのが監査対応です。ここでは監査を受ける際のポイントについてまとめていきます。これは会計士の立ち会いのもと行うものと、自社の監査役の役員が立ち会うもの、内部統制部門や内部監査の担当者が立ち会うもの等いくつか種類があります。
棚卸が正しくできていないと、棚卸資産の金額が変わりますので決算書の信頼性が損なわれます。さらにいえば、利益を水増しする目的で在庫金額を増やすといった粉飾が行われることがあり、監査ではこれも警戒されています。
- 棚卸での監査のポイント|目次
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- 実地棚卸できちんとカウントしているか
- カウントしたものを正しく記録しているか
- 在庫の場所を示すロケーション図があり、場所があっているか
- 棚卸実施場所に、棚卸除外品があるか、それらは間違えてカウントしないようになっているか
- 膠着在庫・不動在庫等の名称で価値を減じる必要のある在庫がどのように保管されているか
- 不良品などの措置
- 預け在庫については、倉庫管理をしている相手が発行する在庫預り証があるか
- 棚卸実施手順や要領を記載した書面の確認
- 在庫一覧表、実施記録の確認
- 棚札・在り物調査票がすべて回収されているか
- 伝票類の確認
- 倉庫内をみてまわり、カウント漏れしているものがないか
- 抜き打ちでいくつかテストカウントを実施し、棚卸結果の通りか確認
極論すると、監査では以下の2つを確認することが目的といえます。
- 故意に在庫を変えている操作が行われていないか
- 在庫の数が金額が正しくカウント・計上されていない事象が起きていないか
以下項目別にみていきます。
実地棚卸できちんとカウントしているか
これは経営監査部門等が同行して確認することがあります。在庫の現物(在り物ともいいます)につけてある棚札がちゃんとあり、それをチェックしているが、カウントする際に調査票に正しく記帳しているか、立ち会い人は現物をカウントしている様子があるかといった点が見られます。なかには棚卸が面倒で、一緒に立ち会ってはいるものの、現物をまったく見ずに機械的にチェックを行っている人が稀にいます。
また箱単位でカウントしているタイプの製品の場合、抜き取り検査で箱内の数が本当にあっているか確認する場合もあります。
カウントしたものを正しく記録しているか
調査票にまとめて記載したり、そもそも棚卸をしていないのに帳票上は行っていることにしているといった不正がないように記録内容が確認されます。 間違ったものについては二重線で消し、正しい数量に訂正する必要があります。
在庫の場所を示すロケーション図があり、場所があっているか
エフを付ける関係上、工場や倉庫の担当者が場所を完全に覚えていることが多いのですが、それらを示す地図も本来は必要です。仮にないのであれば、工場や倉庫内を監査の担当者たちと回った際に、説明できないものが置かれていないこと、見たいと言われたものがすぐに出せる、カウントできる状態になっていることが大切です。
棚卸実施場所に、棚卸除外品があるか、それらは間違えてカウントしないようになっているか
棚卸除外品というのはミスや不正の温床になりますが、実務上、どうしても残ってしまうことがあります。理由を明記して張り紙をつけつつ、指摘を受けた場合はなぜここにあるか説明できる必要があります。
膠着在庫・不動在庫等の名称で価値を減じる必要のある在庫がどのように保管されているか、その数は増減しているか
不動在庫は会計規則において、帳簿価格を変える必要のある価値を失った在庫です。そのルールは会社ごとに異なる届け出がなされていますが、いったん届け出ているルールは期ごとにころころ変えることはできません。
例えば、1年間まったく注文がない在庫は、価値を半分にするというルールを適用している会社があるとしたら、該当する在庫が1億円あるなら5000万円を損失(評価損)として計上する必要があります。これを利益が多かった年は、評価損の割合を100%にし、反対に利益が少ない年は評価損の割合を少なくするというようなことをすると、利益操作となり粉飾決算となります。
このため、監査では定められたルールで不動在庫の計上がなされているか、またそれらの増減の管理がどのようになされているか、在庫置き場では不動在庫か否かがわかるようになっているか、どのように判定しているか、情報更新はどうしているかといった点が気にされる内容になります。
不良品などの措置
品質不具合等で販売見込みがまったくなくなっている在庫はそもそも棚卸前に廃棄しておくべき対象ですが、何らかの事情で実棚時に残ってしまっている場合、不動在庫として計上するか、伝票等含めた社内手続き上は廃棄処理が完了しているものの現物の廃棄だけが間に合わなかったという体で、棚卸除外のエフ等を付けて、実棚にカウントしない方法がとられますが、この措置が正しく行われているかがポイントとなります。
預け在庫については、倉庫管理をしている相手が発行する在庫預り証があるか
自社以外に、自社の資産となっている在庫を置いているケースが多々あると思いますが、こうした場合に在庫の預かり証が先方の記名・押印済みで、必要な書式で記載されているか確認されます。
棚卸実施手順や要領を記載した書面の確認
自社内にこうしたものがなく、勘や経験のみから行っているのであれば、早急に準備すべきです。
実地棚卸は仕組みです。それがうまく回らなかったり、仕組みに欠陥があると、問題が再発するので実施要領はシステマチックに構築しておく必要があります。
一旦それができてしまえば、在庫の現物にエフを付けて、それを在庫一覧表に記載するという作業、それを立ち会い者とともに確認して、チェック済みの調査票を集計入力する、というしごくシンプルな作業です。
管理面で見た場合、棚卸でもっとも難しいのは、積送在庫の管理と、不動在庫の指定です。
例えば3月31日に棚卸を実施するとして、工場や倉庫を可能な限り稼働停止させてカウントしますが、なかには1時間置きに注文があり、客先への出荷が常時あり、生産に使う品物の入荷についても完全に止められないケースがあります。こうした場合、輸送中の在庫をどのようにカウントするか、というのが積送在庫の問題です。
各倉庫や工場の出荷場で出荷処理が終わっているが、トラックに積み込まれていないものを、輸送中の在庫としてカウントしつつ、各倉庫や工場でもカウントしてしまうと二重計上されてしまいます。
反対に、各倉庫は積送在庫としてカウントされると思い、積送在庫の担当も各倉庫でカウントされると思っていると、お互いにお見合いエラーの状態になって、どちらも計上せずに棚卸カウントから漏れてしまうということも起きます。
このため、積送対象にする在庫はどれか、その在庫には棚札等のエフを付けないのか(注文データから抽出して計上するのか)、といったことを倉庫や工場と事前に取り決めておく必要があります。
また注文をEDI等で電子化している業種が多いと思いますが、こうした場合、どのような場合に自社の在庫から客先の在庫へ移転するのか、オーダーごとに設定が異なることがあります。こうなると、客先や注文ごとに何を積送とするのかを変えていく必要があります。
この辺りも含めて詳細な手順書というのは作るべきです。
在庫一覧表、実施記録の確認
在庫の一覧表、在りもの調査票ともいいますが、実地棚卸で記帳したすべての在庫の一覧と、そのカウントにあたって実施した担当や立ち会った担当、実施責任者の押印・日付が記載されたものを残しておく必要があります。
棚札・在り物調査票がすべて回収されているか
在庫は多数の倉庫に点在していることが多いため、すべての調査票を回収して数があっているか確認します。棚札や調査票には連番がついており、一対一の関係になっています。このため、使わなかった棚札の束から、どこからどこまでを使ったかがわかりますので、それらも捨てずに保管します。
伝票類の確認
入庫伝票や出庫伝票は正しく入出庫されているか、理論在庫と実地棚卸の差異がある場合にも重要なエビデンスとなります。これらは廃棄せずに、すぐに取り出せるよう保管しておく必要があります。
倉庫内をみてまわり、カウント漏れしているものがないか
監査がある場合、対象となる倉庫や工場は実地棚卸前に通達があるので、どこを見たいのかある程度絞られていることが多いですが、工場内や倉庫内を行き来する過程で、エフがついていない在庫があったり、棚卸除外と思われるものが散見されると、それらがどのように計上されているのか確認が入ることがあります。
問題のある在庫を監査の間だけトラックに積んで倉庫間を行き来させるというような不正を行う担当もいますので、よくよく注意が必要です。
抜き打ちでいくつかテストカウントを実施し、棚卸結果の通りか確認
いかに書面がしっかりしていても、棚卸で重要なのは現物と調査票の在庫数があっているかという点につきます。このため、監査対象となる工場や倉庫では、監査人が指定した品物をその場で取り出してテストカウントするということが行われます。
1回程度のずれの場合は、また別の製品を取り出してカウントするよう指示があり、そこで数があっていれば大事になりませんが、さらに取り出して再カウントした別の製品の数もずれていると倉庫全体の棚卸をやりなおしするよう指示が出ることもあります。
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