ITO成膜の手法にはどのようなものがありますか。
ITOとは、Indium Tin Oxideの略で酸化インジウムスズのことを指しています。これは酸化インジウム(In2O3)と酸化スズ(SnO2)の混合物で、それぞれの比率を変えることで得られる膜の抵抗値や透明度に影響があるとされます。また、これらの比率やそれぞれの純度だけでなく、ペレットタイプのものを使う場合は密度も大きく膜性能に影響してきます。成膜手法により、ペレット状になったITOのほか、溶かし込んで使う顆粒状のITO、バスケットに入れて使うブロック状(粉砕状のもの)、スパッタで使うターゲット材のITOなど様々なものがあります。
ITO膜は、透明でかつ導電性をもつ(電気を通す)膜という稀有な存在で、他の透明導電膜に比べても電気特性や透明度が比較的出しやすいとされ、タッチパネルや液晶ディスプレイ(LCD)の普及等に伴い爆発的に使用量が増加しました。現在は、これらの透明導電膜を帯電防止膜(埃や塵がつきにくくする)や、赤外線反射用途(熱線の遮蔽目的)の膜に使ったりするケースもあります。
一時、その原料であるインジウムがレアメタルということもあり、頻繁に投機対象になって値上がりしたりといったことでも話題になりましたが、現在は代替材料(ZnOなど)についても研究開発が進められていますが、インジウム抜きのもので特性を出すには現在も課題が残っているといわれており、またITO膜のもつ低い比抵抗と高い透明度は他の物質ではなかなか代替しづらいのが現状です。ITOそのものの改良開発も進んでおり、一般には酸化インジウムスズにさらにレアメタルを一種もしくはそれ以上添加(ドープ)することである特性だけを高めたり、下げたりといったことが行われています。もっとも、材料物質の組み合わせだけでなく、成膜手法と技術にも膜特性は大きく受けるため、これらは常にセットで検討する必要があります。同じ材料を使っても、全く同じ膜特性にならないのはこのためです。
ITO膜で最もよく使われる成膜手法はスパッタリングで、次いでフィルム蒸着や、イオンアシスト等を使った真空蒸着など、PVD(物理的気相法)を用いた方法がよく使われます。用途によって、CVD(化学的気相法)、塗布、スピンコート、スプレー法なども使われます。PVDはナノ単位の高純度膜をつくるのに適しており、ITO膜の特性をフルに引き出すことが出来ることからよく用いられています。CVDの場合は、反応に高温環境が必要なこともあり、基板の多くの耐熱温度があまり高くないものが多いことや、低抵抗膜を作る際の難度が高いという課題があります。
ITO膜が必要なほとんどのケースでは、高い導電性とともに高い透過率も要求されるため、吸収が発生したりすると導電性がよくても目指すものにはなりません。
薄膜の特性【参考】
主として光学膜や機能膜として用いられる薄膜の代表的な特性、物性について紹介します。
酸化物の薄膜
- Al2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)
- CeO2(酸化セリウム)
- Cr2O3(酸化クロム)
- Ga2O3(酸化ガリウム)
- HfO2(酸化ハフニウム、ハフニア)
- NiO(酸化ニッケル)
- MgO(酸化マグネシウム、マグネシア)
- I.T.O(In2O3+SnO2)酸化インジウムスズ
- Nb2O5(五酸化ニオブ)
- Ta2O5(五酸化タンタル)
- Y2O3(酸化イットリウム、イットリア)
- WO3(酸化タングステン)
- TiO(一酸化チタン)
- Ti3O5(五酸化チタン)
- TiO2(二酸化チタン、チタニア)
- ZnO(酸化亜鉛)
- ZrO2+TiO2(複合酸化物)
- ZrO2(酸化ジルコニウム、ジルコニア)
フッ化物の薄膜
- AlF3(フッ化アルミニウム)
- CaF2(フッ化カルシウム)
- CeF3(フッ化セリウム)
- LaF3(フッ化ランタン)
- LiF(フッ化リチウム)
- NaF(フッ化ナトリウム)
- MgF2(フッ化マグネシウム)
- NdF3(フッ化ネオジウム)
- SmF3(フッ化サマリウム)
- YbF3(フッ化イッテルビウム)
- YF3(フッ化イットリウム)
- GdF3(フッ化ガドリニウム)
窒化膜
炭化膜
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