蒸着とスパッタの違い
蒸着とスパッタはともに、ナノ単位の薄膜を量産するのに向いた薄膜製造技術で、使われる最終製品もかぶることが多い手法です。薄膜を製品や部品に成膜する必要が出てきたとき、どちらの成膜手法を採用すべきか一概には言えないことも多く、あるいは同等の薄膜をどちらでも作ることが出来るケースもあることから、昨今では成膜装置メーカーがどちらに注力しているのかという点がそのまま成膜手法のポピュラリティにつながっている感があります。
蒸着とは、真空中で材料に電子ビームや熱を加えて、それらを基板に膜付けする方法です。イメージとしては、電子ビームを照射された材料が分子レベルまで分解して、真空中をゆっくり移動し、基板の上に降り積もっていくような手法です(構造上、材料が下に置かれ、基盤の設置されるドームは上部にあるため、雪などが降り積もるのとは逆方向になりますが・・)。
対してスパッタとはチャンバー内に充填されているArガスに電気を通して、イオン化し、これらをターゲットと呼ばれる材料の塊に衝突させて、そこから飛び出した材料の分子を薄膜にしていく方法です。スパッタの利点としては、蒸着に比べて大面積の基板にも均一に成膜できる点があげられます。
一般的な蒸着とスパッタと違いをまとめると下表のようになります。但し、両者とも成膜装置に起因する技術革新も進んでおり、下記の関係が逆転してしまう項目もあるので、「成膜手法」の一般的な特徴を踏まえたうえで、個別の「成膜装置」について見ていくことがますます重要になりつつあります。
スパッタ | 蒸着 |
---|---|
薄膜の原料となる粒子のエネルギーが大きく、試料(基板、基材)への付着力が大きい。 | 分子のエネルギーは小さいので付着力は弱い(イオンアシストなどの機構をつけることで加速化できる)。 |
合金系、化合物などの別を問わず、これらの組成比を変えずに成膜することができる。 | 蒸発の際、組成変化することがある。 |
蒸着では難しいとされる高融点材料も成膜が容易(電子ビーム【EB】の登場で蒸着でも容易になっている)。 | 装置構造がシンプル。 |
膜厚を時間だけで高精度に制御可能。 | 高真空中で成膜を行うため、純度の高い薄膜が得られる。 |
大面積の基板でも歪みやばらつきが少なく、均一に成膜できる。 | 薄膜の原料の蒸発源が点。したがって、曲率の大きいものや、ドーム内での基板の配置場所によって膜分布にばらつきができる可能性がある。大面積のものにはあまり向かない。 |
ターゲットの場所に試料を置くことでエッチングができる。 | スパッタで稀に起きるプラズマによる試料(基板)の損傷が少ない。 |
成膜速度は遅い(スパッタの種類によっては速いものもあり)。 | 成膜速度は速い。 |
薄膜の特性【参考】
主として光学膜や機能膜として用いられる薄膜の代表的な特性、物性について紹介します。
酸化物の薄膜
- Al2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)
- CeO2(酸化セリウム)
- Cr2O3(酸化クロム)
- Ga2O3(酸化ガリウム)
- HfO2(酸化ハフニウム、ハフニア)
- NiO(酸化ニッケル)
- MgO(酸化マグネシウム、マグネシア)
- I.T.O(In2O3+SnO2)酸化インジウムスズ
- Nb2O5(五酸化ニオブ)
- Ta2O5(五酸化タンタル)
- Y2O3(酸化イットリウム、イットリア)
- WO3(酸化タングステン)
- TiO(一酸化チタン)
- Ti3O5(五酸化チタン)
- TiO2(二酸化チタン、チタニア)
- ZnO(酸化亜鉛)
- ZrO2+TiO2(複合酸化物)
- ZrO2(酸化ジルコニウム、ジルコニア)
フッ化物の薄膜
- AlF3(フッ化アルミニウム)
- CaF2(フッ化カルシウム)
- CeF3(フッ化セリウム)
- LaF3(フッ化ランタン)
- LiF(フッ化リチウム)
- NaF(フッ化ナトリウム)
- MgF2(フッ化マグネシウム)
- NdF3(フッ化ネオジウム)
- SmF3(フッ化サマリウム)
- YbF3(フッ化イッテルビウム)
- YF3(フッ化イットリウム)
- GdF3(フッ化ガドリニウム)
窒化膜
炭化膜
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