蒸着での膜厚の範囲はどれくらいですか
蒸着は物理的気相法に分類される薄膜製造の技術ですが、この手法は総じて10nm〜数百nmの膜厚をもつ高品質の薄膜を製造するのに向いています。これ以上の薄さを一定の厚み誤差の範囲内で行う場合は、CVD法(化学的気相法)のほうが向いています。こちらは薄膜をつけようとする対象を真空状態の窯にいれ、中に薄膜にしたい材料をガス状態にしていれて反応させ、膜をつけていくというものです。膜が高純度で極端に薄いものであることが求められる半導体業界でよく使われる成膜手法の一つです。
膜厚がミクロン単位のものになると蒸着やスパッタでは時間がかかってくるため、あまり量産用途では実施されることはありません。また厚すぎると、剥離の問題も出てきます。膜厚が厚いものを成膜する場合は、基板との密着力や他に積層している膜との密着度についても考慮する必要があります。ナノレベルでは問題のなかった密着力でも、単位がミクロンに入ると、膜そのもののもつ圧縮力や引張り力、基板のもつそれらの力との反撥のバランスが適合しないと、剥離につながります。こうした厚膜の場合は、溶射やメッキ、スピンコートなども選択肢と考えられます。
代表的な元素の原子1つ分の直径が凡そ2〜4Å(オングストローム)前後、ナノ換算すると0.2nm〜0.4nm(ナノメートル)。これを鑑みると、分子がうまい具合に並んでも、ある物質の薄膜の薄さには限度があることがわかります。蒸着では、ちょうど分子一層分だけといった単位での成膜を行う技術を持つ会社もありますが、一般には10nm程度が最も薄い膜厚(制御が難しいため、保証値はもっと厚い場合が多いです)になっています。成膜を依頼する場合は、膜厚の公差についてもどの程度の範囲なのか確認するとよいでしょう。
薄膜の特性【参考】
主として光学膜や機能膜として用いられる薄膜の代表的な特性、物性について紹介します。
酸化物の薄膜
- Al2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)
- CeO2(酸化セリウム)
- Cr2O3(酸化クロム)
- Ga2O3(酸化ガリウム)
- HfO2(酸化ハフニウム、ハフニア)
- NiO(酸化ニッケル)
- MgO(酸化マグネシウム、マグネシア)
- I.T.O(In2O3+SnO2)酸化インジウムスズ
- Nb2O5(五酸化ニオブ)
- Ta2O5(五酸化タンタル)
- Y2O3(酸化イットリウム、イットリア)
- WO3(酸化タングステン)
- TiO(一酸化チタン)
- Ti3O5(五酸化チタン)
- TiO2(二酸化チタン、チタニア)
- ZnO(酸化亜鉛)
- ZrO2+TiO2(複合酸化物)
- ZrO2(酸化ジルコニウム、ジルコニア)
フッ化物の薄膜
- AlF3(フッ化アルミニウム)
- CaF2(フッ化カルシウム)
- CeF3(フッ化セリウム)
- LaF3(フッ化ランタン)
- LiF(フッ化リチウム)
- NaF(フッ化ナトリウム)
- MgF2(フッ化マグネシウム)
- NdF3(フッ化ネオジウム)
- SmF3(フッ化サマリウム)
- YbF3(フッ化イッテルビウム)
- YF3(フッ化イットリウム)
- GdF3(フッ化ガドリニウム)
窒化膜
炭化膜
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