蒸着で言うイオンアシストとは何ですか
真空蒸着では、チャンバー(蒸着装置の釜の部分)を高真空にすることで分子となった材料が、基板に付着し、より不純物が少ない薄膜を作ることができますが、密着力や膜の密度に課題が残ることがあります。電子ビームなどが照射されて分子となった蒸着材料は、チャンバー内をゆっくりとすすみ、上部のドームにセットされた基板に付着していきますが、この基板との密着力にはある程度の温度が必要となります。プラスチックや樹脂系のレンズなど基板の種類によっては、この温度を十分にあげることができないため、薄膜と基板との密着力が確保できないケースがあります。また膜を構成する分子が降り積もるように堆積していっても、加熱が十分に出来ないと膜の充填密度が足りず、光学特性が思ったほど出ないことが多々あります。具体的には透過させなければならない波長で吸収が発生してしまうなどの現象です。こうした問題を解決するために、イオンアシスト装置が使われることがあります。イオンアシストは、成膜の際に用いるイオンによる補助的な役割を果たす機構の総称で、イオンプレーティングやイオンビームなどがよく知られています。
イオンビームによるものは、イオンボンバードメントとも言いますが、イオン銃と呼ばれるものを成膜装置のチャンバー内の角や下部にセットして、成膜中にそこからイオンを照射し、分子となってゆっくり浮遊している材料を加速させて、基板に叩きつけていきます。このため、基板の加熱温度が低くても密着力を確保し、膜を構成する分子の密度もより詰まったものになるため、N値(屈折率)をはじめ、目的とする透過率、吸収などが実現できます。昨今では高温加熱が出来ない基板、樹脂レンズの増加に伴い、ほとんどの蒸着ではこのイオンアシストによる機構が備わっています。
薄膜の特性【参考】
主として光学膜や機能膜として用いられる薄膜の代表的な特性、物性について紹介します。
酸化物の薄膜
- Al2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)
- CeO2(酸化セリウム)
- Cr2O3(酸化クロム)
- Ga2O3(酸化ガリウム)
- HfO2(酸化ハフニウム、ハフニア)
- NiO(酸化ニッケル)
- MgO(酸化マグネシウム、マグネシア)
- I.T.O(In2O3+SnO2)酸化インジウムスズ
- Nb2O5(五酸化ニオブ)
- Ta2O5(五酸化タンタル)
- Y2O3(酸化イットリウム、イットリア)
- WO3(酸化タングステン)
- TiO(一酸化チタン)
- Ti3O5(五酸化チタン)
- TiO2(二酸化チタン、チタニア)
- ZnO(酸化亜鉛)
- ZrO2+TiO2(複合酸化物)
- ZrO2(酸化ジルコニウム、ジルコニア)
フッ化物の薄膜
- AlF3(フッ化アルミニウム)
- CaF2(フッ化カルシウム)
- CeF3(フッ化セリウム)
- LaF3(フッ化ランタン)
- LiF(フッ化リチウム)
- NaF(フッ化ナトリウム)
- MgF2(フッ化マグネシウム)
- NdF3(フッ化ネオジウム)
- SmF3(フッ化サマリウム)
- YbF3(フッ化イッテルビウム)
- YF3(フッ化イットリウム)
- GdF3(フッ化ガドリニウム)
窒化膜
炭化膜
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