プラスチックの耐薬品性の一覧
プラスチックにおける耐薬品性とは、ある薬品に一定時間浸けたあとに、質量、寸法、色、外観、物理的性質が変化するかどうかを見るための指標です。
プラスチックは薬品に浸されると、おおむね次の4パターンの挙動を示すといわれています。拡散、膨潤・溶解、化学的分解、ケミカルクラックの4つです。これらは、薬品に一定時間浸した際に、質量や寸法が変化するかどうか、色が変わるかどうか、外観(光沢や、透過性、クラック、クレージング、剥離、反りなどのプラスチックの外観検査項目)がどう変わるか、物理的性質(機械的性質や電気的性質、光学的性質、熱的性質)が変わるかどうかを調べることで判断することができます。
また、耐薬品性を見る上では薬品の温度も重要な要素となりますので、注意を要します。同じ薬品でも高温のものと常温のものとでは耐性が変わる材料が多くあります。最近では耐熱性の優れたプラスチックもよく知られるようになっていますが、金属に比べてプラスチックは総じて耐熱性が低い材料の部類です。
さらに、プラスチックには物性強化のために様々な充填材や添加剤が加えられますがこれらの有無や種類によっても耐薬品性に影響を及ぼします。
薬品にも数多くの種類がありますが、すべての薬品に対して耐性をもつプラスチックは残念ながら存在しません。ただ、総じて耐薬品性に優れたプラスチックはあります。スーパーエンプラに分類されるフッ素樹脂(PTFE、PCTFE)やPPS(ポリフェニレンスルフィド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、PEI(ポリエーテルイミド)等は薬品に強いプラスチックとして知られますが、これらにもそれぞれ弱点はあります。
使用する用途、環境、部品の大小、コスト、成形性(加工性)などを検討して最適なプラスチック材料を選んでいくことになります。
優れた耐薬品性を持つプラスチック、樹脂の例
上述のとおり、あらゆる薬品に対して万能の強さを発揮するプラスチックは存在しないのが現状ですが、薬品に対する耐性が優れたものとしては例えば以下のような種類のプラスチックがあります。
PPS樹脂(ポリフェニレンスルフィド)
200℃近い耐熱性が着目されるスーパーエンプラですが、高温下では強酸に侵されます。常温でのアルカリ、酸には強く、200℃以下ならば有機溶剤への抵抗も大きい素材です。
プラスチックの耐薬品性の一覧|強酸、弱酸、弱アルカリ、強アルカリ、油、有機溶剤の耐性
種類 | タイプ | 弱酸 | 強酸 | 弱アルカリ | 強アルカリ | 油 | 有機溶剤 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
PE-HD(高密度ポリエチレン) | 結晶性 | 強い◎ | 一部弱い△ | 強い◎ | 強い◎ | 普通○ | アセトン、ベンゼン、エステルのいずれにも弱い×。アルコールには強い◎。 |
PP(ポリプロピレン) | 結晶性 | 強い◎ | 一部弱い△ | 強い◎ | 強い◎ | 普通○ | アセトンとベンゼンには強い◎。エステルには弱い×。アルコールには普通○。 |
硬質PVC(ポリ塩化ビニル) | 非晶性 | 強い◎ | 一部弱い△ | 普通○ | 普通○ | 普通○ | アセトン、ベンゼン、エステルのいずれにも弱い×。アルコールには強い◎。 |
PS(ポリスチレン) | 非晶性 | 強い◎ | 一部弱い△ | 強い◎ | 強い◎ | 一部弱い△ | アセトン、ベンゼン、エステルのいずれにも弱い×。アルコールには普通○。 |
AS(アクリロニトリル−スチレン樹脂) | 非晶性 | 強い◎ | 一部弱い△ | 強い◎ | 強い◎ | 強い◎ | アセトン、ベンゼン、エステルのいずれにも弱い×。アルコールには普通○。 |
ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂) | 非晶性 | 強い◎ | 一部弱い△ | 強い◎ | 強い◎ | 一部弱い△ | アセトン、ベンゼン、エステルのいずれにも弱い×。アルコールには一部弱い△。 |
m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル) | 非晶性 | 普通○ | 普通○ | 普通○ | 普通○ | 一部弱い△ | アセトン、ベンゼン、エステルのいずれにも弱い×。アルコールには一部弱い△。 |
PA6(ポリアミド、ナイロン) PA66(ポリアミド、ナイロン) |
結晶性 | 普通○ | 弱い× | 普通○ | 普通○ | 普通○ | アセトン、ベンゼン、エステルのいずれにも強い◎。アルコールには一部弱い△。 |
POM(ポリアセタール) | 結晶性 | 一部弱い△ | 弱い× | 普通○ | 普通○ | 普通○ | アセトン、ベンゼン、エステル、アルコールのいずれにも強い◎。 |
PC(ポリカーボネート) | 非晶性 | 強い◎ | 一部弱い△ | 一部弱い△ | 弱い× | 一部弱い△ | アセトン、ベンゼン、エステルのいずれにも弱い×。アルコールには普通○。 |
PSU(ポリスルホン) | 非晶性 | 普通○ | 普通○ | 普通○ | 普通○ | 強い◎ | アセトン、ベンゼン、エステルのいずれにも弱い×。アルコールには普通○。 |
フッ素樹脂:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) | 結晶性 | 強い◎ | 強い◎ | 強い◎ | 強い◎ | 強い◎ | 有機溶剤全般に強い◎。フッ素樹脂を侵す薬品としては、溶融アルカリ金属や高温のフッ素、三フッ化塩素が知られる。 |
PEI(ポリエーテルイミド) | 非晶性 | 強い◎ | 強い◎ | 一部弱い△ | 一部弱い△ | - | 市場には耐薬品性を強化したグレードも存在する。塩化メチレンやトリクロロエタン等のハロゲン系脂肪族化合物には侵される。 |
PAI(ポリアミドイミド) | 非晶性 | 強い◎ | 強い◎ | 一部弱い△ | 弱い× | - | 有機溶剤には強い◎。アルカリ水溶液、アミノ化合物には弱い。 |
PPS(ポリフェニレンスルファイド) | 結晶性 | 強い◎ | 一部弱い△(高温下) | 強い◎ | 強い◎ | - | 200℃以下であれば有機溶剤には強い◎ |
PF(フェノール樹脂)充填材なし | 熱硬化性 | 強い◎ | 強い◎ | 強い◎ | 強い◎ | - | 有機溶剤にはある程度耐性あり |
PU(ポリウレタン) | 熱硬化性 | 一部弱い△ | 弱い× | 一部弱い△ | 弱い× | - | 有機溶剤には一部弱い△ |
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