研磨と研磨材の種類
研磨は有史以前から存在する表面処理加工の技術で、新しい素材が誕生するたびに、それを加工するための研磨技術や研磨材もまた開発されてきました。古くは装飾用途からはじまり、近代になってからは望遠鏡の光学レンズの研磨など、この加工技術の発展なくしては明らかにすることが出来なかった科学上の発見もあります。現代では滑らかな表面が必要とされるあらゆる素材に応用されており、シリコンウエハの研磨や、太陽電池の結晶の研磨、パワーデバイス用途のSiCの研磨といった新しい分野にも使われています。研磨は広範な産業分野で用いられ、社会生活に大きな影響を与えてきた身近にして、最先端の分野とも関わる加工技術の代表格といえます。
研磨の基本原理
研磨の方法は、簡略にいえば加工しようとしている対象に研磨材を物理的に擦り付けることで表面を削っていく方法が主流でしたが、今日では、こうした機械的な研磨だけでなく化学的な研磨と組み合わせたCMP研磨や、化学反応によって表面を処理する化学研磨、電気化学的な方法で行う電解研磨などの手法も用いられています。
研磨に類似した表面処理加工技術には、「研削」「切削」がありますが、研磨加工にもこれらに共通している性質があり、特に研削と研磨は厳密に使い分けられていない業界もあります。研磨にも、研削のように表面を削っていると思われる挙動だけでなく、塑性流動といわれるような表面の凹凸の移動現象、また化学反応によると思われる現象が複合的に観察できる場合があります。実際のところ、すべての材料で「研磨」しているときに、表面性状を変えている原因や因果関係が厳密にわかっているわけではないため、科学的には未解明な部分を残す技術で、今なお研究・発展が続けられています。
分野ごとにあまりにも違う「研磨」の常識
「研磨」という加工技術は、各分野で専門的に探求されてきた分野にもかかわらず、使われる分野が広いこともあり、業界が異なるだけで、使う装置の種類や用語の定義などの「常識」も大きく変わってしまう特異な分野です。研磨に関わる業種の人同士が話をしても、関わっている産業分野が違うと話がうまく噛み合わないことがあるのはこのためで、本来は一つの研磨という言葉では括れないほど多様化してしまっている加工技術でもあります。
また、研磨材という言葉は、研磨のために用いる資材全般を指し示す言葉で、遊離砥粒であるか、固定砥粒であるかを問わずに使われていますが、明確な定義づけがあるわけでもないため、砥石についても用いられたり、スラリーなどの液体による研磨材についても用いられます。
このコーナーでは多様化しつつある材料別の研磨の特徴や、研磨材の種類などについての情報をなるべく幅広く紹介していきます。
主要な研磨材と研磨手法
研磨材 | 化学式 | 特徴 | 主な研磨方法 |
---|---|---|---|
ダイヤモンド | C | 最高の硬さを持つ。工業用途では人造ダイヤモンドが好まれる。鉄鋼材料との相性が悪い。高価だが耐久性が高い。 | ラッピング、ポリシング |
cBN (立方窒化ホウ素) | CBN | ダイヤモンドに次ぐ硬さ。鉄鋼材料の加工に適する。熱に強い。 | 砥石研磨 |
アルミナ (酸化アルミニウム) | Al2O3 | αアルミナとγアルミナがある。用途に応じてWA、A砥粒、HAなどグレードを使い分け。 | 砥石研磨、研磨布紙加工 |
炭化ケイ素 | SiC | アルミナより硬度が高い。黒色と緑色がある。非鉄金属や非金属の加工に適する。 | 砥石研磨、バレル研磨 |
炭化ホウ素 | B4C | SiCよりも硬度が高い。セラミックス系の基板や部材など高硬度材料の研磨に使用。 | ラッピング |
ベンガラ (酸化鉄) | Fe2O3 | 赤褐色。研磨力は弱いが、仕上げに使用。古くから使用されている。 | ポリシング |
酸化クロム | Cr2O3 | 緑色。光沢を出すのに適する。研磨力は弱い。 | ポリシング |
酸化セリウム | CeO2 | 光学ガラスやガラス研磨に不可欠。ガラスとの相性が良い。 | ポリシング |
酸化ジルコニウム | ZrO2 | 他の研磨材と混ぜて使用。アルミナほど硬くない。 | 砥石研磨 |
酸化チタン | TiO2 | 仕上げ工程用。ポリッシングで使用。 | ポリシング |
二酸化ケイ素 | SiO2 | シリコン結晶の研磨、CMP用。コロイダルシリカとしても使用。 | CMP (化学機械研磨) |
酸化マグネシウム | MgO | 白色のセラミックス材料。仕上げ用。研磨力は弱い。 | ポリシング |
研磨方法の詳細
1. ラッピング研磨
ラッピング研磨は、平面や曲面を高精度に仕上げる方法です。
- 特徴:
- 高精度な平面度や表面粗さが得られる
- 硬質材料の加工に適している
- 大面積の加工が可能
- プロセス:
- ラップ盤上に研磨材を散布
- 加工物を押し付けながら回転させる
- 研磨材の粒度を徐々に細かくしていく
- 適用材料:
- セラミックス
- 金属
- 半導体材料
2. ポリシング研磨
ポリシング研磨は、表面を滑らかに仕上げる方法です。
- 特徴:
- 鏡面仕上げが可能
- 微細な表面形状の制御ができる
- 柔軟な研磨布や研磨パッドを使用
- プロセス:
- 研磨布やパッドに研磨剤を塗布
- 加工物を押し付けながら回転させる
- 研磨剤の粒度を徐々に細かくしていく
- 適用材料:
- 金属
- プラスチック
- ガラス
3. 砥石研磨
砥石研磨は、回転する砥石を使用する方法です。
- 特徴:
- 高い材料除去率
- 様々な形状の加工が可能
- 砥石の選択により幅広い材料に対応
- プロセス:
- 適切な砥石を選択
- 砥石を回転させながら加工物に押し当てる
- 必要に応じて冷却液を使用
- 適用材料:
- 金属
- セラミックス
- 複合材料
4. バレル研磨
バレル研磨は、容器内で製品と研磨材を振動させる方法です。
- 特徴:
- 大量の小型部品を同時に処理可能
- 複雑な形状の部品にも適用可能
- 自動化が容易
- プロセス:
- 容器に加工物、研磨材、研磨液を投入
- 容器を回転または振動させる
- 時間経過とともに表面が研磨される
- 適用材料:
- 金属部品
- プラスチック部品
- 宝飾品
5. 研磨布紙加工
研磨布紙加工は、研磨剤を付けた布や紙を使用する方法です。
- 特徴:
- 手作業から自動化まで幅広く適用可能
- 柔軟な研磨が可能
- 粒度の選択により仕上げ度合いを調整可能
- プロセス:
- 適切な粒度の研磨布紙を選択
- 加工物に研磨布紙を押し当てる
- 粒度を徐々に細かくしていく
- 適用材料:
- 金属
- 木材
- プラスチック
6. 電解研磨
電解研磨は、電解液と電流を使用する方法です。
- 特徴:
- 表面の平滑化と光沢化が同時に行える
- 複雑な形状の部品にも適用可能
- 機械的な応力がかからない
- プロセス:
- 加工物を陽極として電解液に浸漬
- 電流を流して表面を溶解
- 凸部が優先的に溶解され、表面が平滑化
- 適用材料:
- ステンレス鋼
- アルミニウム
- チタン
7. CMP (化学機械研磨)
CMPは、化学作用と機械的作用を組み合わせた方法です。
- 特徴:
- ナノレベルの平坦化が可能
- 化学反応と機械的研磨の相乗効果
- 半導体製造プロセスで重要
- プロセス:
- 研磨パッドに研磨スラリーを供給
- 加工物を押し付けながら回転
- 化学反応で軟化した表面を機械的に除去
- 適用材料:
- シリコンウェーハ
- 金属配線
- 絶縁膜
研磨剤の選択と考慮事項
研磨剤の選択には、以下の要素を考慮する必要があります:
- 硬度
- 形状
- 破砕性
- 結晶系
- 化学的安定性
- 毒性
また、研磨剤の結合度(A?Z)も重要で、加工対象物の硬さに応じて適切な結合度を選択します。
研磨剤の粒度
研磨剤の粒度は、JIS R6001によって定められた「F+数字」で表記されます。数字が大きいほど細かく、小さいほど粗いことを表します。粒度は砥材の強度にも影響し、加工の工程に適不適があります。
一般的に、粗削りから最終の仕上げまでの用途に応じて段々と粒度の大きい研磨剤を使用するのが基本となります。
研磨加工の選択
研磨加工の選択は、以下の要素を総合的に考慮して決定する必要があります:
- 加工対象物の材質
- 求める表面品質
- 生産性
- コスト
適切な研磨材と研磨方法の組み合わせにより、高品質な表面仕上げを効率的に実現することができます。
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